歴史を自らの歯でしっかり噛み砕いた靴
AUTHENTIC SHOE &Co. 2007春夏コレクションのボタンドブーツ。竹ヶ原さんの服飾文化史に対する造詣の深さを思い知らされる一足です。 |
19世紀後半から20世紀初めにかけて、その清楚な面持ちで紳士・婦人を問わず一世を風靡したボタンドブーツ。いやーこんなに良好なコンディションで、良くぞ残っていてくれました。きちんと保存してくれていた博物館に感謝!……と言う話題では、ありません。
何を隠そう小生も、この靴を先日伊勢丹のメンズ館ではじめて見た時には、
「あれ、参考品としてイギリスのメーカーか博物館から昔の靴を借りてきたのかな?」
って本気に勘違いしてしたくらいですから、読者の皆さんがそう考えるのも当然のこと。 今回はこんな古典的な作品を、自らの確固たる視点を踏まえ現代にそして未来に向けて投影しているシュークリエイター、竹ヶ原敏之介さんのお話です。
古典的、なのに古臭くない!
AUTHENTIC SHOE &Co. 2007春夏コレクションのバルモラルブーツ。細かいところまで古の靴のディテールそのもの。でも全くカビ臭く見えないところが、竹ヶ原さんの作品の真骨頂でしょう。 |
竹ヶ原敏之介、彼の名を靴がお好きな方なら一度は耳にしたことがあるでしょう。美大在学中から靴創りをゼロから独学で始めた彼は、今日広く知られるまで様々な「伝説的経験」を積み重ねてきました。ここでは敢えて細かくは触れないものの、そのどれもが、靴の歴史そのものを改めて辿り直しているようなものばかりです。だからでしょうか、彼の作品も、その歴史にしっかりと裏打ちがなされている気がします。上の写真のバルモラルブーツも、ボタンドブーツと同様に19世紀後半によく履かれた靴。トウシェイプやヒールの優雅な曲線は、正に当時の靴そのものです。
ただ、彼の靴は何と言うのか… 確かに「古典的」な風貌ではありながら、不思議な事に「古臭さ」を全く感じないのです。むしろ、いい加減なデザイナーやブランドの靴よりも現在、更には未来を鮮明に映し出せています。単に歴史に忠実なだけで造形してしまうと、得てしてこの種の靴は足囲が(当時の欧米の人に合わせて)必要以上に細くなるばかりでなく、顔立ちにも今日に行き場のない「か細さ」が全面に出てしまいがちです。あるいは歴史の上澄みだけをいい加減に加味してデザインすると、その時しか効力を保てない「ひ弱な」靴にしかなりません。そう言われると思い当たる靴、読者の皆さんもありますよね。
それに対して、彼の靴から感じることができるのは、逆に古典的であるが故の「真っ直ぐな勢い」でしょう。喩えるなら、丁度弓の名手が矢を放った時のように、思索の根源を思いっきり後ろに深く引っ張った分、それが確固たる説得力となって、誰よりも真っ直ぐ、誰よりも勢いよく、そして誰よりも前に到達できている感覚。靴に限らず、服飾文化の歩みを相当高次元に消化・吸収しているがために、自らの脳と言うフィルターを通じそれを今日的に、不自然なく再創造できているから可能な造形なのです。だから、実は細さも計算され尽くしていて、見た目に比べ実際の足入れが全く自然なのも嬉しい!
そう、小生が竹ヶ原さんを「デザイナー」ではなく「クリエイター」と紹介しているのも、上述の「再創造」が机上の空論ではなく、極めて構築的に、かつ地に足が付いた隙間ない形でなされているからです。彼が木型を削れたり、実際に靴を製造できる技術を持ち合わせているから、だけではありませんよ。
次のページは、「揺るぎない『気骨さ』を感じる靴」です。
彼の靴創りのユニークさに、更に迫ります。