狩猟靴が街履きになった、フランス型
コロッと丸いつま先が特徴の、パラブーツのシャンボール。悪路・悪天候への圧倒的な強さでも、この靴の起源がどのようなものだったかが理解できます。 |
フランスではこの種の靴は「シャッス(Chasse)」などと呼ばれています。これは「狩猟」を意味する単語で、英語にすると”Chase”になるので、何となく想像できた方もいらっしゃるでしょう。因みに上の写真にあるパラブーツの靴の愛称は”Chambord”。これは16世紀のフランス王・フランソワ1世が、その狩猟のためだけにロワール渓谷に建てた、なんとも贅沢な城の名から採られたものです(この城は現在、世界遺産に登録されている筈です)。モカシン縫いの位置が高めで、確かにお城の外壁のように見えなくもないですね。
トウの先端には縦割りの縫い目がはっきりあるものも、スキンステッチになっているものも、全く無いものも色々あります。が、総じてイギリスのものよりつま先はコロッと丸く、かつ高いのが特徴です。用途を考えると歩行性が最優先だからなのでしょうが、美を機能より常に先に意識しがちなお国柄にしては珍しい造形とも言えます。第二次大戦後から1950年代にかけて、この靴はフランスの野山だけでなく街にも一気に定着し、以後今日でもこの国の靴の代名詞のようなスタイルになっています。イギリスのメーカーであるエドワード・グリーンのUチップの名がなぜ”Dover”なのか? 感の良い方ならもうお分かりでしょう。
中でも有名なのが、上記のパラブーツの”Chambord”と大変よく似たJ.M.ウエストンの名作・”Golf”でしょう。どちらもラバーソールが標準装備ですし、はっ水力に優れた革をアッパーに用いていますので、野山でも都会でも道の状況や天候を気にせず履くことが可能で、永年の人気の秘密もそこにあるようです。
ゴルフシューズも多かった、アメリカ型
三陽山長のUチップ「寿七郎」。甲とつま先のモカシン縫いはいわゆる「飾りモカ」ですが、本家アメリカのブランドのものより縫いが遥かに細かく、日本の職人さんのレベルの高さがよく解る靴です。 |
一方アメリカではこれらの靴は、「ノルウィージャン・ブルーチャー(Norwegian Blucher)」とか「アルゴンキン・ブルーチャー(Algonquin Blucher)」などと呼ばれます。前者はイギリスの所で説明したのと同じですが(外羽根式の靴の英米での呼称の違いについては、こちら)、後者は「モカシン縫い」のもう一つ別の起源であるネイティブアメリカンの狩猟履きから、その一種族の名にちなんで付けられた名称です。また、その風貌から単純に「スプリット・トウ(Split Toe)」などと呼ばれる場合もあります。
イギリスやフランスのものに比べ、甲周りのモカシン縫いはあるものの、2枚の革が接合されているわけではなく単なる装飾で(これを「飾りモカ」と言います)、つま先の先端もこれで縦割り状に縫われていることが多いのが特徴です。トウシェイプはイギリスのものより尖っているものもあれば、フランスのものより丸いものまで、それこそ様々です。
アメリカではこのスタイルは、1930年代頃から特にゴルフ用に好んで用いられていました。流石に「飾りモカ」仕様ではできませんが、2色使いのコンビシューズも多かったようです。そのため今日でも、欧米ではフルブローグ以上にカジュアルな靴と見なされる場合が多々あります。モカシン縫い=カジュアルの公式が、我々が考えているよりもまだ根強く残っているようなのです。
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