誂え靴は、木型で決まる!
この靴、踵周りに縫い目がありません。革素材と職人技の見事なハーモニーです。シューツリーも正に芸術品。 |
ロンドンに帰ってからは?
J氏:
お客様のデータをもとに、木型作製、パターン作製(甲革をどう裁断するか製図する)、クリッキングまでを私一人で行います。その後のクロージング(甲革を縫製する)と底付け(甲革に底革を縫い付ける)は、他のロンドンの誂え靴店と同じく、超一流の職人に外注して完成させます。
ガイド:
ジェイソンさんの靴は、底付け前にいわゆる仮縫いフィッティングをしない、と伺ったのですが……。
J氏:
そうです。修行先のジョン・ロブと同様、完成後に必要に応じ調整するやり方です。でもその分採寸をしっかり行いますし、特に不都合を感じた事はありません。逆に仮縫いがあると、「その後修正すればいい」と安直に考え、採寸に集中力を欠く恐れもありますから。
ガイド:
保管用のシューツリーは靴が完成後に作製ですか?
J氏:
はい、調整後にシューツリーを作ります。ここまでで日本にお住まいの方には約1年かかります。
ガイド:
靴を創る際、一番気を遣う工程は何ですか?
J氏:
1つだけ挙げろと言われると、木型作製ですね。「美しさと履き心地の両立」は永遠の課題ですが、それを一番左右するのが木型だからです。1日でできる工程ですが、突き詰めると深みにはまり、丸一日お客様の足型データとにらめっこだけで終わる日も、少なくないのです(と小生とにらめっこを始める……)。
鳩目周りを別の革にしたコンビシューズです。しかもそこをまだら模様に仕上げました。こうしたフィニッシュも誂えならでは。 |
一番感動するのはどんな時でしょう?
J氏:
やはり商品が完成しお客様に履いていただいて、完璧に仕上がったのを確認できた時です。その際、「では次の注文は……」と再度ご注文をいただいたり、その場で残金をお支払いいただけると、なおさら嬉しい(笑)。 あとは、新品の時より風格を増して靴が修理に帰って来た時です。お客様が育ててくれたのだと思うと、多少の汚れやキズも勲章に思えます。
ガイド:
では逆に、しんどいと感じるのは……
J氏:
自分のポリシーとあまりにかけ離れた注文が来る時です。先日もロンドンで「このフランスの靴と同じように……」と注文にいらした方がいたのですが、悩んだ末にゴメンナサイしました。その方は、まずパリのその靴店に行くべきだと思ったからです。私はイギリス人ですから(笑)。
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