かつては日本を代表するドレスブランドの生産を一手に引き受け、現在は世界も注目するドメブラのシューコレクションの数々を、やっぱり一手に引き受ける山形は南陽市の、宮城興業。そんな日本の財産ともいうべきシューメーカーが、満を持してオリジナルのレーベルを立ち上げた。その名を「謹製誂靴」という。驚くべきことにこの靴、カスタムメードシューズである。
多様化するユーザーのニーズを受けて、世の中はオーダー花盛りだ。ビスポーク工房が再び脚光を浴び、プレタの中にもオーダーを開始したレーベルがある。しかし、そのシステムは色、素材が変更できる程度で、それをオーダーと言って切ってしまうのは、いささか違和感がある。生産計画に基づき量産するメーカーにあって、確かに受注生産システムは効率的ではない。とはいえアッパー材の変更くらいなら、ある程度つくり込んでおくことも可能だろう。そう考えると、本来はユーザーの足の形に合わせて一から木型を削る“オーダー”と、既製靴メーカーが謳う“オーダー”はその本質において、まったくの別物だと思うのである。
アメリカのオールデンは、足にハンディキャップを抱える人々のための靴づくりをルーツにもち、今も個人注文を受ける。しかしメーカーとは量産を前提とした存在であり、オールデンは例外中の例外なのだ。
宮城興業を紹介するのは、メーカーでありながら本来のオーダースタイルを実に真摯に追求し、極めて優れたシステムを確立したからだ。レングス(足長)とウイズ(足幅)の掛け合わせは優に100通り以上。そして驚くことに、のせ甲(客の足に合わせ、木型を調整する)にまで対応するのだ。もうこれは、ビスポーク工房の世界。
デザイン面のバリエーションも実に豊富だ。40を超えるデザインパターンがあり、フォルムはラウンドトウかチゼルトウのどちらかを選ぶことができる。素材はカーフ、キップ、スエード、オイル、型押しなど一般的なモノから、クロコダイル、パイソン、コードバンといった希少革まで揃う。ほかにもソール、ヒール、敷革、ライニング、靴紐、ステッチの糸…と靴のありとあらゆるパーツを自分仕様に変更することが可能。さらにはヒドゥンチャネル(伏せ縫い)、踏まず部のペース(木釘)打ち、ウエルト形状の変更にまでオプションで対応する。
そして驚くことなかれ、オープンプライス(お店のほうで値段を決める)なので実際の小売価格はわからないけど、この靴、多分5万円もあればお釣りがくるはずだ。
で、素朴な疑問にたどり着く。まるでビスポークのようなきめ細かな対応を、あくまでメーカーである宮城興業がなぜ、実現できたのか。冒頭でも触れたが、宮城興業は今、ドメブラとの取引に力を入れている。大手レーベルと違い、彼らの発注量はたかが知れている。サンプル段階でポシャってしまう靴もいくらでもある。つまり、これからを背負って立つ若手を懐深く受け入れて、細かな注文に応じてきた土壌があったからこそ、完成したオーダーシステムなのである。
もちろんスキルは日本トップクラスだし、奇をてらわないオーソドックスなデザインは着る服を選ばない。そのコンセプトはビスポークそのもので、そう考えるとちょっと贅沢だけど、日々ガンガン履く靴として数足もっておきたい靴である。
*写真上からサンプル見本、スワッチ、ラウンドトウ&チゼルトウ、ソールパターン(本革、クレープ、合成ゴムなどから選べる)、ブランドコンセプト。
●問い合わせ/宮城興業TEL.0238-47-3155
*注文は、すべて取り扱い店舗にて。公式ホームページに、ショップリストがあります。
http://allabout.co.jp/mensstyle/shoes/subject/msub_dress_4.htm
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