靴は大別すると甲周りを包むアッパーとソールがあって、それをひとつにする工程を底付けという。底付けには様々な種類があるんだけど、靴というモノはそれ一つで雰囲気も履き心地もがらりと変わる。“箱”のデザインに飽きたらず、構造にまでするどく踏み込んだのが、ここで紹介する靴々。
たまらないワークテイスト。
トップページを飾ったのがこの「コンプリート」。海外のシューショーで日本人で初めてベストシューズに選出されるなど、今、最も脂の乗っているデザイナー、神保久志のブランドだ。彼は“オヤジの履ける靴”をデザインワークのコンセプトに掲げており、ベーシックなテイストの中に個性を出すのが上手かった。そんな彼がこの冬、コレクションに加えたのがこれ。トップページのディテール寄りのカットを見てもらえばわかるけど、つま先周りがステッチダウン、かかと周りがグッドイヤーで底付けされている。製法の細かい解説は省くけど、要はかかとをきちんと包み込み、つま先を開放してくれる。これって機械じゃできない製法で、その履き心地は実際に履いて確かめたい。
●コンプリート3万9000円(右)、3万5000円(左)/ディングtel.03.5452.3355
あの著名ライター、山口淳さんも上手くなったと驚いてた。
この靴の底付け名称はくるりん製法。まさかこんな名称が実際にあるわけもなく、ソートー古い時代にあった製法で文献にもその名は残っておらず、作り方からイメージしてつけたモノだそーです。かつて競輪選手の靴なんかに採用されていた製法で、袋縫いの一種なのだけど、その吸いつく感触にはびっくりしました。手前がその靴で、右奥は舟底、左奥はハンドソーンウエルト。
●シュー・メーキング・イズ・マイ・ライフ5万円(手前)、5万2000円(右奥)、7万円(左奥)/そのみつtel.03.3871.2033
かつてない贅沢なスリッパ。
洋服に詳しい人ならおなじみの、いせ込みを靴に採用したのが「タカヒロ・ヤハギ」。先の「コンプリート」をつくっているメーカーのオリジナルで、社長が一念発起、みずからの名前を冠し、デビューさせたとゆーわけです。細かい解説をはしょれば、スリッパなのにかかとがついてくる、不思議なスリッパです。
●タカヒロ・ヤハギ価格未定/ディングtel.03. 03.5452.3355
新世代カントリー。
ボロネーゼといえばその名から察せられるとおり、イタリア・ボローニャで広まった製法で、彼の地に工場を構えるア・テストーニが専売特許的に採用している。なぜ“専売特許”なのかというと、ボロネーゼは袋縫いの一種なのだけど、その工程の面倒臭さから、世界を見渡してもほとんどできる工場がないからなのだ。で、国内工場でこの製法の靴をつくってしまったのが「ショセ」。イギリスじゃおなじみのカントリーブーツも、すっかり様変わり。いいです。レディスのコレクションでも人気のオヤジ靴、これもいい味出してます。
●ショセ4万6000円(右)、3万5000円(左)/プリュス・バイ・ショセtel.03.3463.7607
今回、製法をフィーチャーしましたが、最後までお読みいただけばわかるように、製法そのものにはほとんど触れていません。それは僕がグダグダ書くよりも、実際に履いてみた方がよほどすっきりと、その良さを実感することができると思うからです。ここではむしろ、新しい製法を採用しつつ、その制約に縛られることなく、実に完成度の高いデザインを構築した手腕にこそ、注目してもらいたいです。
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