カーメンテナンス/車のトラブル

レースであったちょっと怖いE/Gトラブル(2ページ目)

なんだかエンジンの調子が悪い、と思って、ヘッドカバーを開けてみると、バルブまわりの部品が外れてエンジンの中を転がっていた……。今回は、ガイドが実際にレースで体験した、そんなぞっとする話を紹介します。

執筆者:宮島 小次郎

オーバーレブしても壊れない構造はさすが?

カム機構
ヘッドの中を見ると、手前のロッカーアームが脱落し、バルブの頭が見えている。奥には落ちたロッカーアームも
さて、問題のロッカーアームはあるべき場所から外れて、4つともヘッドの中に転がっていました。こんな大きな部品が、ヘッドの中に転がってて、よく無事だったなと安心したのもつかの間、ロッカーアームとバルブの間に入るパーツ、シムも見当たらないことに気付きました。これは小指の先ほどの小さな部品で、パッと見たくらいではなかなか見当たりません。

それからはメカニックや仲間のドライバー、スタッフ総出で狭いエンジンルームにライトを当てて必死にシムを探しました。ようやく2つほどを見つけることができましたが、残りはヘッドには見当たりません。ならば下に落ちたか、ということで、次はオイルを抜き、エンジンの一番下でオイルを溜めるオイルパンの中に落ちていないかと捜索の手を広めます。

いくら小さな部品といっても、まさか上から下まで落ちることはないだろう、と思うかもしれませんが、ヘッドに回ったオイルはオイル戻しの通路を通って、ブロックを抜けオイルパンまでダイレクトに落ちる構造となっていますから、あながちあり得ないとはいえません。実際、ヘッドの中に部品は見当たらないのですから。

ロッカーアーム
ヘッドやオイルパンから見つかった部品。大きなものがロッカーアームで、小さいのがシムだ
すると、ありました。やはりオイルパンに落ちていたのです。しかし、見つかったのは1つだけ。ということは、もうひとつがどこかにあるはずです。これは本格的にオイルパンもはがす必要があるか、と半ば覚悟を決めていたところ、レースをサポートするトヨタのレース部門メーカー、TRDのスタッフからシムならオイルパンに落ちていれば問題ないでしょう、というアドバイスが。

いくら小さなパーツとはいっても、エンジンの中に放置するのにはちょっと抵抗がありましたが、時間的な制約もあったので、TRDのアドバイスに従いシムの探索は諦めて、脱落したロッカーアームを元通り組み上げます。足りなくなったシムは現場でTRDから購入し、対処できました。

どうにか時間内にエンジンを元通りに組み直し、早速走行を再開すると……。エンジンの調子は抜群です! カムが4本動いてなかったんだから、4秒はタイムアップしないとね、などと冗談で言っていたのが、一気に4秒以上のタイムアップを実現しました。まぁ、実際それくらいのタイムが出ないと、予選すら通過しそうになかったのですが。

ただ、よくよく考えてみれば、やはりオーバーレブによって、無理矢理エンジンを回してしまったのですから、最悪はバルブとピストンが接触し、深刻なダメージが及ぶ可能性もありました。そんなときにロッカーアームが外れてくれるというのは、エンジンを保護する意味では、よくできた設計といえるかもしれません。こうした部分もさすがにトヨタというべきでしょうか。

ただ、この症状は一般道で普通に走っている分には、ほとんど体感できないと思います。逆に低回転域では、吸気バルブがひとつ開かないくらいの方がトルクが出るということもあります(実際、昔のトヨタのエンジンではそういう仕組みのものもありました)。もし、同じトヨタの1NZエンジンでいまいち調子がよくない、という場合、確認するにはやはりヘッドカバーを開けてみるのが確実ですが、場合によっては排ガスの成分を調べてみて、異常が出ていればそれと分かるかもしれません。いずれにしても、オーバーレブをさせたというような原因が思い当たるならば、のハナシですが。


写真:井上誠(走行シーン)

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