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オートソック・布製タイヤ滑り止めは本当に有効か

オートソックはナイロン布製のタイヤチェーン。脱着や収納の容易さが評判で口コミでも話題だが、滑り止めとして本当に安全なのだろうか。スタッドレスタイヤと比較しながら、実際に雪道を走行して、その実力を試してみた。

執筆者:宮島 小次郎

オートソックを装着して雪道での走行性能をチェック!

 走行イメージ
ナイロン布製のタイヤ滑り止めオートソックの雪道性能を実際の雪道で走らせて確かめてみた。価格/オープン(実勢価格:1万円~1万5000円)

手軽に脱着ができ、コンパクトに収納できる画期的な布製タイヤ滑り止めとして口コミでも評判の『オートソック』。記事「布製タイヤチェーン・オートソックのメリットと注意点」では、その利便性や取り扱い方法などを中心に紹介しましたが、いかに便利なものであろうと、雪道で安心して走れなければ滑り止めとしての意味はありません。そこで今回は、実際の雪道での走行性能を試してみました。

オートソックを初めて手に取ると、まず驚かされるのがその接地面の感触です。ナイロン糸を編み込んだ接地面は、ツルツルとした手触りで、とてもこれが雪道に食い込んで走るとは信じられないものです。では、オートソックが雪面を捉えることができるのは、どのような原理によるものなのでしょうか。
 
接地面アップ
オートソックの接地面を触ってみると、ナイロン特有の滑らかな肌触りで、これが雪道でグリップするとは想像しにくいが……
通常スタッドレスタイヤでは、トレッド面の凸凹としたパターンで雪を咬み込み、押し固めた雪をせん断するときに生じる抵抗力によって、雪道でのグリップ力を発生しています。金属やゴム製のチェーンでは、その突起部を雪面に食い込ませることで、より直接的にタイヤの駆動力を路面に伝える働きをしています。オートソックの場合、これらと異なり、ナイロン布の表面に微細な繊維の毛羽立ちがあり、雪がこの繊維に張り付く効果を利用して、雪道でのグリップ力を発揮しているのです。

では、最も滑りやすい凍結路ではどうでしょうか。凍結路が滑りやすいのは、氷の表面に水膜が乗り、タイヤと路面がしっかりと接触できなくなることが最大の原因といわれています。そのためスタッドレスでは、トレッドの接地面にサイプと呼ばれる細かい切れ込みを入れ、毛細管現象によってタイヤと路面との間に入り込んだ水を吸い上げることで、有効なグリップ性能を引き出しています。オートソックでも同様に、ナイロン布が水を吸い込む働きをすることで水膜を除去し、路面とオートソックの接地面とを確実に接触させているのです。
 

スタッドレスとオートソックを比較……その性能とは

こうした原理を聞いても、分かったような分からないような感じかもしれませんので、百分は一見にしかず、ということで、実際に走ってみてその効果を試してみます。実はこれまでにもオートソックの使用レポートのようなものは見たことがあったのですが、個人的にちょっと納得がいかなかったのが、ノーマルタイヤとオートソック装着状態を比較していた点です。

ノーマルタイヤでは滑って走れなかった雪道も、オートソックを履いたら走れるようになった……それは当然でしょう。そのグリップ力がどの程度のものなのか、もう少し参考になる指針があればと思い、今回はあえてスタッドレスを装着したクルマで、テストを行ってみました。しかも、スタッドレスは数シーズン使用し、性能の劣化も見られる状態という結構ありがちなシチュエーションです。
 

圧雪路、凍結路ともにスタッドレスに迫る性能を発揮

装着状態
乗り心地なども含めて、走行感覚はスタッドレスに近いものであった
テストを行ったのは、降り積もった雪を除雪車で踏み固めた圧雪路を中心に、うっすらと路面に雪が積もる程度の舗装路なども走行しました。当日の気温はマイナス5度と低く、雪が少ない部分ではところどころ凍結も見られます。テスト車両は、トラクションコントロールの類が装備されていないFR車です。

まずはスタッドレスでの走行です。しっかりと踏み固められた圧雪路は、実はスタッドレスで最も走りやすいシチュエーションです。そのため、数シーズン使い込んだタイヤとはいっても、一度走り出してしまえばそれなりの性能は発揮してくれるものです。ただし、停車状態からラフにアクセルを開けてしまうと空転を起こし、特に坂道での発進では慎重なアクセル操作が必要となりました。また、凍結した坂道での発進では、完全に駆動輪がスリップしてしまい、全く進むことができない状況に陥りました。

次にオートソックを駆動輪(テスト車では後輪)に装着して、同じコースを走ってみます。まず圧雪路ではスタッドレスとそん色がない、というよりも(使い込んだ)スタッドレスを凌ぐ走りを見せてくれました。停車状態からのスタートでも、明らかに空転する量が少なく、舗装路と同じようなアクセルの踏み方をしてもそれほどスリップせずに加速することができました。

また、コーナリング時、つまりタイヤに横方向の力が掛かっているときのグリップ性能でも、スタッドレスに比べてスライド量が少なく感じられました。これはスタッドレスがもともと制動や加速といった縦方向のグリップ性能を重視したトレッドデザインを採用していることもあって、横方向のグリップ性能は相対的に低いのに対し、オートソックではそうした指向性に捉われないグリップ・メカニズムを採用していることからくる差だと思います。これはちょっと意外な発見でした。
 

スタッドレス劣化の緊急用としてもオートソックは有効

ただ、本来のようにオンロードタイヤの駆動輪のみにオートソックを装着する場合には、通常のタイヤチェーンなどと同じく前後輪のグリップ力に大きな差が生じますから、4輪にスタッドレスを装着したときのような走りは期待できません。オートソックを装着していないタイヤのグリップレベルに合わせて、慎重な走りを心掛けるべきでしょう。

スタッドレスが完全にお手上げになった凍結路での坂道発進でも、オートソックの優位性を確認できました。もちろん、アクセルはかなり慎重な操作が求められますが、しっかりと凍結した坂道を登ることができたのです。スタッドレスの劣化による性能変化は、こうした凍結路での性能に顕著に現れますから、スタッドレスを履いている時のエマージェンシー用としてもオートソックは有効です。ただ、凍結路は気温や傾斜角などの路面状況によってコンディションは全く異なりますから、過信は禁物です。

その他、特筆したいポイントとしては、優れた乗り心地についてです。これは布製というオートソックの特徴を考えれば当然のことですが、金属やゴム製とは比べ物にならないほど快適です。雪道ではもともと振動が出やすいこともあって、スタッドレスだけのときと比べてもほとんど違いが分からないほどでした。
 

オートソックの使いこなし方とは?

装着例
雪道をどのくらいの頻度で走行するのか、各自の使い方に合わせて選択するといいだろう
今回、実際にオートソックを使ってみて、その雪道性能は十分なものだと分かりました。これならば、タイヤチェーンの代わりとして、安心しておススメすることができます。ただし、その使い方には少々制約というか、気を付けたい点があるのも事実です。そこで最後にまとめとして、オートソックがどのような使い方にマッチしているのか、考えてみました。

まず、普段はめったに雪が降らない地方に住んでいるドライバーにとってですが、年に一度か二度あるかないかの降雪に備えたエマージェンシー用のキットとして、冬の時期に携帯しておくには最適な製品です。使い方によっては、数年以上も使用できそうですから、コストパフォーマンスも優れています。何より、もしものときに手軽に装着できるというのが最高です。

年に数回スキーや行楽などで雪道を走行する機会があるというユーザーにも、目的地に確実に辿り着くための滑り止めとして、十分な性能を発揮してくれるはずです。ただ、雪道を走行する頻度によっては、コストが高くなるのは否めません。また、高速道などでチェーン規制が出たときに対応できない可能性があるというのも注意したい点です。そのため、スタッドレスまでは不要というユーザーであれば、タイヤチェーンとオートソックを両方用意し、状況に合わせて使い分けるという方法もアリだと思います。
 

4輪全てにオートソックを装着するのもアリ?

降雪地域に住んでいるユーザーや頻繁に雪道を走行する機会がある人にとっては、間違いなくスタッドレスがおススメです。ただし、その場合も前述のようにエマージェンシー用としてオートソックを用意しておけば、もしものときに役立つはずです。スタッドレスといえども万全ではありませんから、雪道を頻繁に走行していれば、どうしてもスタッドレスだけでは対応できないシーンに遭遇する可能性はあります。今回は試していませんが、スタックして動けなくなった時にも、ジャッキアップするなどしてオートソックを装着できれば脱出できるかもしれません。

また、初心者などでなるべく安全に雪道を走行したいという場合や凍結によって極端に危険な路面状況に遭遇した場合には、4輪全てにオートソックを装着するという方法も考えられます。もちろん、コスト的には倍の出費となりますが、スタッドレスを購入することを考えれば、それでも半額以下で用意できますし、何よりも安定性は飛躍的に高まります。

結論としては、雪道を走行する可能性のあるユーザーであれば、誰でもオートソックを備えておいて損はないと思います。ちょっと宣伝のように聞こえてしまうかもしれませんが、性能、利便性、価格の全ての要素が高いレベルで両立された製品として、本当におススメできるアイテムです(理想をいえば、全サイズの実勢価格がもう少し控えめとなるとなお良いのですが……)。
 

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