ジュエリー/その他のジュエリー関連

フランス屈指の老舗宝飾店、そのブティックの内側は… パリ、ブシュロン本店を訪問(2ページ目)

ヴァンドーム広場の一角に本店を構える《ブシュロン》を訪ねました。特別な顧客のための美しい個室や、通常は入れない工房、デザイン室の様子をお伝えします。まもなく発売予定の新作も速報。

執筆者:本間 恵子

今回の取材では、ハイ・ジュエリーのメゾンとしては大変珍しいことに、デザイン室とジュエリー工房への入室も許されました。厳重なセキュリティ・システムにガードされたデザイン室と工房は、カスティリオーネ館の最上階にありました。

最上階とはいっても、古い建物のことですから、実は天井の低い屋根裏部屋。ここでプラース・ヴァンドームの石畳を見下ろしながら、3人のデザイナーと17人の職人たちが、最も格の高いハイ・ジュエリーの制作に携わっていました。

テーマは椿姫? 赤いカメリアのネックレス。かつてこのようなハイ・ジュエリーが、この工房から生まれたのです。同じデザインの白いカメリアが、フランス国立自然史博物館で開催された「ダイヤモンド展」で一般公開され、カタログの表紙を飾りました。
Photo:Courtesy of Boucheron, Paris

女性デザイナーたちは、たくさんの資料に囲まれながら、デザイン画をトレーシング・ペーパーに描いています。その多くは豪奢なパリュール(ネックレス、イヤリングなどハイ・ジュエリーのセット)で、宝石が滝のように垂れ下がる“カスケード”ネックレスや、透かしのモチーフなどが特徴となっているとのこと。

広場に面した居心地のよい窓辺で、デザインに没頭するチーフ・デザイナー。描いていたのは、ルビーのネックレス。

古い木のトルソにかけられた、カスケード・ネックレス。長さを調節するだけで、5カ月を要するとか。

工房のほうには世界中からさまざまなオーダーが寄せられ、ある磨き職人はカナダから持ち込まれたネックレスの最終仕上げに精を出し、またある石留め職人は、日本からの指輪のリフォームに苦心していました。ロウ型職人によると、ロウを少しずつ削って形を整えるだけで数百時間かかる、との話。これでは、1つのジュエリーを仕上げるのに数カ月かかるというのもうなずけます。

若い石留め職人。このポストに就くには、一通りのジュエリーの技法を身につけた後、10~15年の実績が必要なのだそう(日本と違って、かなり早い時期に職業訓練を始めるらしい)。

ここで驚いたのは、3カラットを越える水色の石が、作業机の上に無造作にころがっていたこと。おそるおそる「これはダイヤモンド…?」と訊ねると、即座に「ウイ。天然のブルーだよ」との誇らしげな答えが返ってきました。1粒で数億円に匹敵する、極めて稀少な宝石。この小さな屋根裏に老舗メゾンの実力が凝縮されているのだと、思わず息を呑んだ一瞬でした。

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