5人の学生が「新生児科医になることを考えたい」
さあ、こうしたお話のあと、参加した学生さんに「新生児科に行くことを考えてみたい、と思った方はいらっしゃいますか」と聞いてみたところ・・・20名弱の参加者のうち、なんと5名が手を挙げました!「楽なだけではだめなのかな」「あたたかい仕事がしたい」
理由を聞くと、こんな声が聞かれました。「医師になったら、楽そうなクリニックを開こうと思っていた。でも、そんなことばかり考えているようではだめなんだと気づかせてもらった」
「あんな小さな体で一生懸命生きようとしている赤ちゃんの姿に感動したから」
「豊島先生の仕事に人と人のつながりを強く感じた。自分も人のあたたかさを感じられる仕事をしたいと思った」
産科医や新生児科医がひとり誕生するのは大変なこと
私は今回の取材で、医学部に入学しようとしている若い人の言葉を初めて聞くことができました。世間では「医師はいないのか」と血眼で探している地域がたくさん出ていますが、ひとりの若者が医師になるのはやはり大変なことです。厳しい受験勉強もありますし、生半可ではない覚悟が要る仕事です。
医師の中でも産科、新生児科など特に医師不足に困っている科は特に覚悟が必要でしょう。医学生が増えても人の命に関わるような大変な職場を敬遠する若者ばかりしか入学しないようだと,産科や新生児科の医師不足は解消されません。
医学生となるには、親の経済力という問題もあります。私学の医学部は学資があまりにも高いので、国公立の医学部に挑戦し、入れなければ医学部進学を断念する生徒も出るそうです。「医師不足というなら、診療報酬を上げるだけではなく、医学部の授業料についても考えて欲しい」今回参加した生徒のひとりの言葉です。この若い人たちにはなかなか発言の場がありませんが、これも大切な医療政策だと思いました。
偏差値の高さより、人のためにがんばってくれる心を
「高校生と話していると、自分は今、高校の時の夢が叶っているんだ、ということに気づかされました。今日は初心に返ることができました」浅野高等学校を出るとき、豊島医師は言いました。豊島医師にも、中・高校生との対話は力になったようです。「学力だけで決めるのではなく、人のためにがんばりたい、と思っている若者がどんどん医学部に入れたらいいのにな・・・」豊島医師と菊地さんには今後もさまざまな学校での開催予定があるということです。こんなプロジェクトが広がれば、未来の医療への素晴らしい投資になるかもしれません。
◆『安全なお産、安心なお産-つながりで築く壊れない医療』(岩波書店)
危機的状況はなぜ生まれた?日本の産科医療、新生児医療がたどってきた半世紀の道のりを全国57名への取材でたどり、その答を探りました。
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◆「たらい回し」「搬送拒否」は適切な言葉?
NICUのある周産期施設の現状をお伝えしています。