葉酸は妊娠前からの摂取を

葉酸

妊娠前から葉酸摂取を

葉酸は、DNA合成、赤血球の形成に必要なビタミンB群の一種の水溶性ビタミンのひとつで、妊娠中の胎児の発育には欠かせない栄養素です。

2000年12月、旧厚生省は「妊娠を計画している女性、または妊娠の可能性のある女性は妊娠1カ月以上前から妊娠3カ月まで、通常の食事摂取に加えて、葉酸400マイクログラム(0.4mg)を栄養補助食品(サプリメント)等から毎日摂取することで神経管閉鎖障害の発症リスクを集団として低減することが期待できる旨情報提供すること」との通達を出しました。注意点として、1日1000マイクログラム(1mg)をこえないこと、他のビタミンも摂取し、バランスよい食事が必要であり、さらには禁煙、禁酒が不可欠であることが申し添えられています。

中枢神経系の元である神経管は通常は妊娠6週までに閉鎖します。ところが、この神経管が閉鎖せず神経ヒダがむき出しになってしまうことがあるのです。これが神経管閉鎖障害で、無脳症・二分脊椎・脳瘤などの胎児先天異常をきたします。

日本産婦人科医会先天異常モニタリングによれば、わが国での2006 年度の神経管閉鎖障害の出生頻度(妊娠22 週以降の出生1万あたり)は、無脳症1.55、二分脊椎5.05、脳瘤0.39でした。換算すると、日本全国で年間およそ500~700人の神経管閉鎖障害の赤ちゃんが出生していることになります。この頻度(出生1万あたり5~6人)は2015年現在、あまり変化なく推移していると考えられています。

しかも、神経管閉鎖障害の多くのケースは、超音波検査で診断され、人工妊娠中絶となっているので、実際の頻度はもう少し高いと推定されます。
 

葉酸摂取が進まない現実

妊娠の診断を受けてからでは間に合わない
現在葉酸の重要性を知識として持っている妊娠女性は約半数に達していますが、妊娠前からサプリメントとして摂取している女性は10%に満たないとも言われています。ところが、病産院で妊娠の診断を受けてから葉酸摂取を開始しても、神経管閉鎖のプロセスはほぼ完了しているので、そこではもう間に合わないのです。そのような問題を解決するため、多くの国(約60カ国)では、意識せずに葉酸が摂取できる取り組みとして、主食となる穀物に葉酸の添付が義務づけられているほどです。

葉酸サプリメントを摂取するリアリティーは?
それではなぜ半数の女性は葉酸のことを知っていても、サプリメントを服用しないのでしょうか。ひとつとは、日本にはサプリメントを使用する習慣がなかったこと。サプリメントも薬に近い感覚があり、使用することで、妊娠や胎児に何らかの悪影響があるのではという漠然とした不安が強いのだと思います。その他、神経管閉鎖障害という病気が一般的でないこともあるでしょう。

さらに、葉酸のサプリメントを購入し、妊娠前から推奨される0.4mgを毎日きちんと飲んだとしても、すべて防げるわけではなく、5~7割のリスクが減少するにすぎません。つまり、1万出生で約6人が産まれるところが、約2人になるということです。1万出生で3~4人の神経管閉鎖障害が予防できる。もし、これだけがメリットだとするなら、情報提供をされたとしても、わざわざ妊娠する前から、サプリメントを購入して葉酸を飲もうというリアリティはなかなか生まれてこないかもしれません。

葉酸摂取の新たな展開 ~エピジェネティクス~

葉酸は、これまでは、神経管閉鎖障害のリスク低減のため、妊娠初期に摂取することが推奨されてきました。その一方、妊娠後期に多量の葉酸サプリメントを摂取することで喘息になりやすい懸念があるという調査もあり、妊娠中期以降は摂らない方がいいと考えられてきました。現在、通常量であればその関連はないと考えられていますが、産婦人科の現場でも、神経管は妊娠6週に閉鎖するので、妊娠中期からの葉酸の効用についてあまり関心がないのが現状です。

エピジェネティクスとは
葉酸は奇形を予防するだけでなく、遺伝子の働きを調整する大切な栄養素です。妊娠初期より、中期の方が胎児の細胞の増殖が盛んとなるので、葉酸の必要性は高くなると考えられています。「日本人の食事摂取基準2015」でも、葉酸の付加は妊娠初期だけでなく、妊娠を通して、さらには、褥婦でも付加量が算定されています。

近年、糖尿病や高血圧などの、生活習慣病に関係する遺伝子の働きを調整するメカニズムの多くが、受精から、胎児、さらに生後1年くらいまでの間には決まると考えられるようになってきました。その間の、胎児や新生児を育む環境が悪かった場合、遺伝子の働きを調節するメカニズムであるエピジェネティクスが変化して、成人後に病気になるリスクが高くなるというのです。

エピジェネティクスについて簡単に説明します。「エピ」とは外側、「ジェネティクス」とは遺伝的特徴という意味です。これまで、遺伝子に何らかの変化が起こらなければ、次の世代に変化をもたらすことはないと考えられてきました。ところが、最近になって、遺伝子に変化はなくても、環境によって遺伝子の機能が変化することにより、違った表現形が次の世代へと受け継がれることがわかってきました。これが、エピジェネティクスの考え方です。そして、葉酸はそのエピジェネティクスに深く関与していることが知られてきています。
 

葉酸と生活習慣病胎児起源説(DOHaD説)

妊娠中のエピジェネティクスの変化により、生活習慣病のリスクをもって生まれた子どもは、そうでない子とくらべて生活習慣病を発症しやすくなる。ある種の病気は、妊娠中の遺伝子のエピジェネティクスな変化と、出生後の生活習慣という、二段階を経て、発症してくるという考え方を、生活習慣病胎児起源説(DOHaD [Developmental Origin of Health and Disease]説)といいます。体質は親から子へと引き継がれますが、それは遺伝子だけで決まるのでなく、受精卵が着床する前後から妊娠中の環境が大きく影響してくるという考え方です。

葉酸は妊娠を通して摂取するのがいい?
-神経管閉鎖障害の予防目的だけではない-

そのよりよい環境づくりのためには、妊娠前、そして妊娠中の食事と栄養が一番大切ですが、そこには葉酸もかかわっています。例えば、血液中の葉酸が少なくなると、ホモシステインという物質が増えてきます。このホモシステイン濃度が高い妊婦さんの臍帯血を調べてみると、胎児期の遺伝子にエピジェネティクスの変化が起こっていたと報告されました。こうした知見から、最近では、葉酸サプリメントも妊娠前から妊娠初期だけでなく、妊娠の全期間を通して摂取するのがよいと考えられるようになってきています。こうした使用で、早産、胎児発育遅延、常位胎盤早期剥離、妊娠高血圧症候群などのリスクも減少し、流産率、死産率も低下するという報告もされています。

現在、葉酸とは子どもの将来の健康にかかわる栄養素として認識されてきています。とすれば、神経管閉鎖障害予防目的では、妊娠がわかってから葉酸サプリメントをスタートしても少し遅いですが、エピジェネティクスの観点からは、遅くはないということになります。

高用量葉酸の摂取という考え方

これまでは、サプリメントでの葉酸摂取量は、厚生労働省からの推奨もあり400マイクログラム(0.4mg)とされることから、日本のほとんどのサプリメントは葉酸含有量が横並びで400マイクログラムとなっています。

高用量の摂取で不妊治療での着床率、生産率改善の報告も
最近になって、妊娠前から高用量葉酸をサプリメントで摂取することにより、不妊治療(特に体外受精などの高度生殖医療では、受精率、着床率、生産率の改善)での効果があると報告がされました。高用量葉酸摂取により、卵子をつつむ卵胞液の葉酸濃度が高まることで、卵子の質がよくなる可能性があるという考察からです。そうであれば、それを示す調査報告はまだありませんが、自然妊娠もしやすくなるということになります。

神経管閉鎖障害も、0.4mgでは先に予防効果は3~4割でしかないと説明しましたが、Waldらは、2001年にLancetという医学雑誌で、サプリメントによる葉酸摂取が0.4、1、3、5mgと増えるにしたがい、血中の葉酸濃度が高まり、神経管閉鎖障害のリスクも36、57、78、85%と減り、妊娠を計画している女性は葉酸5mgの服用がよいと推奨しました。その他、葉酸摂取では、そのメカニズムまでは解明されていませんが、神経管閉鎖障害だけでなく、口唇・口蓋裂、そして先天性心疾患のリスクも低減するようです。そして、高用量であれば効果もそれだけ高まる可能性があることが示唆されています。なお、高用量の定義はありませんが、400マイクログラムの倍にあたる800マイクログラム以上がひとつの基準になってくるようです。

欧米の知見では、葉酸は1日5mgまでは摂取量が増えるだけ、予防効果が高まると考えられています。ただし、葉酸はDNAを調整する栄養素でもあるため、念のために効果のある最低量をというのが日本のスタンスです。
 

葉酸摂取による副作用は?

それでは、高用量葉酸も含めた、サプリメントによる葉酸摂取の副作用はどうなのでしょう。日本でも、前回の妊娠で子ども神経管閉鎖障害だった女性と、てんかんの薬を飲んでいる女性には妊娠前から葉酸が5mg含まれているフォリアミン錠という薬の処方が処方されます。5mgとは推奨されている0.4mgの12.5倍量で、「日本人の食事摂取基準2015」での、葉酸サプリメントの耐用上限量の1000マイクログラム(1mg)の5倍量です。

主要国の妊娠希望の女性への葉酸摂取勧告は0.4~5mgも幅がありますが、日本では副作用を懸念して最小の0.4mgを推奨しています。葉酸はビタミンAやDのように脂溶性でなく、体内への蓄積性は少ないので毎日摂取することが望ましい水溶性ビタミンです。欧米では1日5mg摂取の調査で健康被害の報告がなかったことを基準に、厚生労働省はより安全にと、その5分の1にあたる1mgまでを安全とし、それを越える摂取ではビタミンB12欠乏の診断を困難にする可能性があるとしています。

できればサプリメントでなく食事で摂取したいのですが?
それも正しい考え方です。妊娠で必要な栄養素は葉酸だけではありません。バランスのとれた食事で、しっかりと栄養を摂ることが大切であることにかわりありません。平成25年国民健康・栄養調査によれば、20-29歳、30-39歳、40-49歳の1日の食事による葉酸摂取量は217、233、234マイクログラムでした。「日本人の食事摂取基準2015」での成人女性の葉酸推奨量は240マイクログラムで、妊婦、褥婦ではそれぞれ240、100マイクログラムの付加量が算定されています。きちんとした食事を摂れていれば、妊娠中の付加量まではいかないにせよ、ほとんどの場合、まず問題はないのでしょう。

摂取基準では、妊娠を計画している女性は、サプリメントなどで400マイクログラムの付加的摂取が推奨されていますが、これも摂取しなければ胎児に影響がでるわけではありません。

ただし、全体で見ると、頻度は少ないものの、食事だけで葉酸が不足することにより、神経管閉鎖障害などのリスクが少しだけ高まるので、そこをどう捉えるかということになります。 
 

なぜ葉酸はサプリメントなのか?

それでは、なぜ葉酸ではサプリメントが推奨されるのでしょう?

天然型葉酸と合成型葉酸の違いとは?
通常の食材中に含まれている葉酸はポリグルタミン酸型の食事性葉酸(food folate)、あるいは天然型葉酸(natural folate)です。これは、サプリメントや強化食品に添加されている合成型葉酸(モノグルタミン酸型、folic acid)と区別されます。医薬品のフォリアミン錠も合成型のfolic acidです。合成型は消化吸収がよく、化学的にも安定しているのが特徴で、食事性や天然型と比べて効率よく葉酸を摂取できるのがメリットで、それが葉酸はサプリメントでという理由になります。

実際、空腹時に摂取された合成型の生体での利用率を100%とすると、食事と一緒に摂取した利用率は、合成型では約85%ですが、天然型のポリグルタミン酸型では約50%になると推定されます。サプリメントの中には天然由来をアピールしているものがありますが、然型はサプリメントとして生体利用性が低いと言っていることになります。食事基準での推奨もモノグルタミン酸型(合成型)です。葉酸に関してはサプリメントでも薬というイメージを払拭しておいた方がいいでしょう。

サプリメントは有用だが慎重に選択を
最近の晩婚、晩産化もあり、不妊治療でも体外受精など高度生殖医療で妊娠する女性が年々増えています。さらには、「卵子老化」が知られ、出生前診断もこれだけ普及し、仕事などの多忙などから、きちんとした食事をとれていない現状なども考えあわせると、今後、葉酸サプリメントはさらに普及してくるのでしょう。ただし、それでも基本は食事であることにかわりありません。葉酸サプリメントは有用とは思いますが、必須ではありません。副作用もまず心配はないのでしょうが、リスクがないとはいえません。ただし、摂取しないリスクも考える必要があります。こうした、きちんとした情報のもと、摂取するかどうかを自分で決めることが大切でしょう。もし、摂取するのであれば、妊娠前からをお勧めしますが、妊娠中からでも遅くはありません。いずれにしても、その時にしかできない、未来への投資というコンセプとでの摂取となるでしょう。

ただし、サプリメント製品の中には、安全性が未検証の原材料を含む製品もあります。また葉酸サプリメントは、葉酸単独のものは少なく、他のビタミンやミネラルも含まれたものがほとんどです。この記事から、高用量を試行しようと、通常の葉酸(0.4mg)サプリメントの服用錠数を増やすことは、他の栄養素が過剰となる可能性があるので控えてください。サプリメントを使用するのであれば、多種多様の製品がある中で、慎重に選択することも大切になってきます。

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