日暮れが早くなるこの時期は、ひとり歩きを始めた小学校低学年の子どもを持つ親にとって、より一層「危険」が気になる季節です。でも、子どもをねらう犯罪について、子どもにどこまで教えればいいのでしょうか?
「わるい人は、子どもをつかまえてどうするの?」
私たち今の親世代が子どもの頃は、「人さらい=誘拐」というイメージでした。「子どもを返して欲しければ、お金を持ってこい。」そういう犯罪の構図は、子どもにとっても理解しやすいものです。しかし、最近の子どもをねらった犯罪はそうではありません。目的は「お金」ではなく、「子ども自身」-このことを、当の子どもにどう伝えればよいのでしょうか。「わるい人は、子どもをつかまえてどうするの?」という問いに、親はどう答えればいいのでしょうか。
衝撃的な絵本『とにかくさけんでにげるんだ』
話しにくいことでも、絵本を読みながら…なら、伝えられる |
「デパートで」「公園で」のあたりは、ふむふむと読みました。迷子になったらどうするか。知らない人に「一緒に行こう」と声をかけられたらどうするか。そうか、子どもにこう教えればいいのね。
でも、「マンションで」の「わたし」がおそうじのおじさんにからだじゅうをさわられそうになった話。「しんせきのおじさんの家で」の「わたし」のおともだちがふくをぬがされて「いやなゲーム」をされた話…。このあたりになると、ドキドキします。この絵本を、子どもに読ませていいのだろうか?と。
子どもと読んでみると・・・?
実はガイド宅では、この絵本は購入してから半年間は子どもに読ませる決心がつかずにしまいこんでありました。でもあるとき心を決めて、子どもの絵本の棚に置いてみたところ、小1の娘が「この絵本、読んで!」と持ってきたのです。少し緊張しながら、できるだけ淡々と読んでみました。親が変に構えなければ、娘は「ふーん」と、必要な知識のうちのひとつ、として受け取ったようです。
親が必要以上に戸惑うことなく子どもと一緒にこうした話をすることができるのは、この絵本が「ただこわいこと」が書いてあるだけではなく、「そうした場合、どうすればいいのか」のところまできちんと書かれているからです。そして、そうした場合に親がとるべき態度についても。
「いやな目に合いそうになったら」「いやな目に合ってしまったら」
この絵本で書かれているいくつかのエピソードは、大きく2つに分類することができます。ひとつは「いやな目に合いそうになった場合、どうやって逃げるか」について。もうひとつは、「いやな目に合ってしまったら、どうすればいいのか」について、です。はじめの「いやな目に合いそうになった場合」については、「おみせの人に、おかあさんをさがしてもらう。」「公園では、“おかあさんはあそこにいるから”と大声で呼ぶ。」「とにかく、知らない人には近づかない。口をきかずに逃げてもいいんだ。」などの方法を子どもに伝えることができます。
しかし、やはり難しいのは「いやな目に合ってしまったら」のほうです。考えたくもないけれど、でも被害を最小限に食い止めるためには、「親には何でも話していいんだ」と普段から子どもに知らせておかなければならない。これが大事なのです。
「いやな目にあったのは、あなた(子ども)が悪いのではない。そして、わるい人に口止めされていても、その約束を守る必要はない。おとうさんやおかあさんに相談すれば大丈夫。」この絵本なら、登場する親たちがそうしたメッセージを繰り返し語ってくれます。
「危険」から目をそらさず、普段の生活の中で話をしておく
一度この絵本を読んだからといって、子どもが必ず的確な行動をとることができるとは限りません。そう、大事なのは普段から繰り返しこうした話をしておくことなのです。性被害に合うのは女の子だけではありません(男の子が被害に合うこともあります)。見知らぬ人だけではありません(親戚や親の知人だったり、ということもあります)。「世の中の大人全てを疑いなさい」と教えるのは残念なことです。でも、「世の中には悪い人もいる」と教えるのは、どうしても必要なことなのです。この本の最後にある「おうちのかたへ」のページで著者ベティー・ボガホールド氏は以下のように述べています。
ふだん、大人のいいつけを守りなさい、人を信じなさいと子どもたちにいっていることは、悪意を持つ大人から利用されやすい状況を作っていることにもなるのです。この本の目的は、子どもたちに誘拐や性被害があることを知らせ、いざというとき自分で判断し、危険な状態から逃げる力をつけるということです。 ※ ベティー・ボガホールト『とにかくさけんでにげるんだ』中の「おうちのかたへ」より引用
また、ボガホールド氏は「こうした話をするときには、体の部分(性器など)の呼び方は、俗称ではなく正確な名前を使うようにしてください」とも言います。「正確な名前を使うことによって、大人たちも冷静に話ができ、子どもたち自身も自分の体について、いやだと思うさわられかたについて、会話の糸口をつかむことができる」ということなのです。
ぜひ覚えておいてほしいのは、こういったことについて親と話ができる子どもは、被害にあいにくく、自分を守れる子どもだということです。親子で話をする材料に、どうぞこの絵本を活用してください。 ※ ベティー・ボガホールト『とにかくさけんでにげるんだ』中の「おうちのかたへ」より引用
難しいことですが、必要なこと。この1冊をきっかけに、子どもと会話を始めることができれば、と思います。
■参考文献
ベティー・ボガホールト作・安藤由紀訳・河原まり子絵 『とにかくさけんでにげるんだ』 1999年 岩崎書店
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