『踊る大捜査線』で深津絵里演じる恩田すみれ刑事のデスクの引き出しには、『辞表』が入っていました。
文房具や割り箸と一緒に無造作に突っ込んである、『辞表』と書かれた白い封筒は、隠し持っているというわけではなく、以前書いて、普段は書いたことさえ忘れているもの。
だけど捨てるきっかけもみつけられない。忙しさに疲れきった時や、不条理に憤るたび、目に止まる。ため息がもれる。

「誰のために働いてんだか…」

普段気が強く、パワフルなすみれさんだからこそ、仕事にがんばる女性の決意や脆さが現れてて、とっても好きなシーンなのですが…。

この「辞表」と書かれた白い封筒…通常会社を辞める時には使いません。

本編でも、スリーアミーゴズこと、神田署長、秋山副所長、袴田刑事課長が、青島刑事を守るため(?)、揃って辞表を出したこともありますが、他のドラマでも定番?な、この「辞表」の扱い…現実とちょっと違う部分がありますよね…。

【転職のノウハウ】ガイド、西村 吉郎さんに聞いてみました。

【一般的には『退職願』】

【西村さん】

ドラマのシーンは、私なども良くない辞め方として、よく引き合いに出す例ですね。
どこがまずいのかといえば、まず「辞表」という表書き。これは、たとえば、国務大臣が事情により職を辞したいといったときに、その意思を伝えるための文書であって、会社で言えば部長あるいは取締役クラスであればともかく、一介の社員が使うにはおこがましいという感じがします。

一般的には、「退職願」とします。・・願とするのは、退職は、会社と社員との間で結んでいる雇用契約を解除することであって、通常は、会社からの承認があってはじめて契約を解除できる(退職できる)合意解約であると解釈されますから、退職することを認めてくださいと申し込む形をとるわけです。

中には、会社に引き留められて辞めるに辞められない事態になることもありますが、この場合は、提出したものが「退職願」であっても、民法の規定により、提出から2週間が経過すれば辞められることになっています。
つまり、2週間あれば一方的に辞めることができるということです。
円満に退職したければ、会社に認めてもらえるまで待つのが筋ですけどね。

「辞表」は間違いではないけど、マナーとして、「-願」という形の方が望ましいということですね。具体的にはどのように書いたらいいのでしょう?

【西村さん】

会社によっては、就業規則で所定の「退職届」を出すように定められていることもあります。この場合は、決まりにそって用紙を手に入れ、「退職届」を出すことになります。

決まりが無い時は、自分で用意しますが、

・封筒や便せんは、市販の白無地のもの。間違っても色つきのものやキャラクターなど絵入りのものは使わないようにしましょう。
社内用の封筒、便せんを使うのもマナー違反です。
・インクは黒または青。当然自筆による手書きでなければなりません。

西村さんの指導のもと、実際に書いてみました

【退職願の書き方とポイント】*名称は実在の人物と一切関係ありません。達筆ですが、私の自筆ではありません(笑)

・封筒や便せんは、市販の白無地のもの。
・インクは黒または青で手書きしましょう。

              退職願

 私は、
一身上の都合により、来る平成15年7月31日をもって退職い
たしたく、お願い致します。

平成15年7月1日
一般事務課
平井 実穂子 (印)

株式会社アバウト商事
代表取締役社長   江幡 哲也 殿


(1)書き出しを一番下にするのは、謙譲の意を表すための決まりごと。「私こと」「私儀」という表現もあります。

(2)退職理由を「一身上の都合」とするのも、一種のお約束です。具体的な退職理由は上司に直接説明すればいいとされています。

(3)宛名は会社の代表である社長です。位置的に自分の名前よりも下にこないようにするのも決まり事の一つです。
ただし、提出する相手は直属の上司。まちがっても社長に持っていったりしないでください。

また、退職願は、記録として残す必要がある公的な文書ですから、社長名の敬称は、「殿」が適切であろうと考えます。
封筒の表書きも「退職願」とします。
裏には自分の部署名と氏名を。
 

これでマナーはばっちり!いざという時は役立てて下さいね。

書き方も大切ですが、この書類で最も重要なのは、日付です。
特に退職日は、社会保険の負担額や、雇用保険の支給日にもかかわってきます。

では、すみれさんの机の中の「辞表」の退職日と日付はいつになっていたのでしょう。

おはなしの流れからすると、「THE MOVIE」につながる「秋の犯罪撲滅スペシャル 」(1998年10月)の後くらいと推測されますが…。

そもそも、退職日って、どうやって決めればいいのでしょうか?


【退職日はどう決める?】

もちろん会社を辞めるのは働く人の自由ですが、その後のことを考えても、円満に退職することは大切です。
ましてや、ドラマやマンガじゃよくある、上司にバーン!と辞表叩きつけ、「今日で辞めます!」なんて、
上司にくどくど怒られてる時など、「一度やってみたいわ~!」と思ったりもしますが(笑)、現実ではマネしちゃダメ。
では、具体的に、退職日はどうやって決めるのがいいのでしょうか。

【西村さん】

ドラマでは、辞表を出して、すぐに会社を飛び出し、そのまま会社に戻らなかったりします。
これでは、いくら上司が悪いヤツであっても、実社会でやろうものなら、2週間以上の無断欠勤で懲戒免職扱いにされても仕方がないでしょう。

退職日は、一方的に決められるものではありません。就業規則で○週間前とかの決まりがありますので。
仕事の状況次第では、それ以上の間をとって退職するよう求められることもあります。いずれにしても、まずは上司に相談する形で退職を意思表示し、その話し合いで、退職日をすり合わせていけば問題はないでしょう。
一方的に退職を通告する場合でも、前述したとおり、2週間の間をおくことが必要になります。

基本的には、就業規則で定められた期間を厳守。無い場合は民法上の2週間。あらかじめ確認した上で、余裕を持って決めるのが望ましいということですね。

【辞表は撤回できるのか?】

すみれさんは、この映画のラストで、引き出しの中の辞表を破り捨て、提出することはありませんでしたが、
本編で辞表を出した神田署長は辞めていないし、他のドラマでも、「辞表」を出したのに、その後問題は無事解決、結局退職しない…という展開は非常に多い(笑)。
辞表を上司が預かった後に本人返したり、破ってしまう、 あるいは、提出した辞表を返してもらう(辞意をひっこめる) ということは、現実的にはアリなのでしょうか?

【西村さん】

退職の申し込みが、「退職を承諾してください」というものであれば、会社の承認が出る以前であれば、いつでも撤回できます。
上司が一時預かりにしていて、上の方にも伝えていない状況であれば、自由に撤回できるわけです。

ただ、会社がもともと辞めさせたがっていた場合は、退職願を出したその日のうちに人事部長か社長が承認してしまって、
撤回できないという状況になったりすることもあるわけですが。

ドラマのように、一方的に通告する意図で提出した場合や、会社が退職を承認したあとは、もはや撤回できません。
ただ、ここらへんは話し合いでいくらでも変えられる(承認がなかったことにするとか、退職願を出すことになった事情がアレだから、など)
部分ですから、どうしても撤回したい場合には、交渉してみる余地はあります。

西村さん、ありがとうございました!

現実的には、「退職願」は、あらかじめ用意しておくものというよりも、退職の意思を口頭で伝え、双方合意の上で退職日を決めてから、後追いで提出するものでしょうね。
退職する人も、退職手続きをする事務担当者も、この時決まった日付と書類が違うということのないように、十分確認しておきましょう。


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