大牧温泉観光旅館
静けさ以外は何もない。15時前、ダム湖の小牧堰堤で小船に乗り込むと、あとはもう翌朝まで便がない。
モスグリーンの湖水の上をエンジン音を響かせ関西電力の船で遡ること30分。
その一軒宿は、湖畔にせり出すように建つ。
平家落人が発見した由来をもつ大牧温泉は、昭和初期までは渓谷の村落に湧く湯であった。しかし、村はダムの湖底に消え、山腹の旅館一軒が残った。
湖底から湯を引き、今も営業する大牧温泉観光旅館である。
今でこそ館内は改装され、ずいぶんと快適となったが、道の通じない宿へのアクセスは、船のみである。物資輸送も不自由のため、2万円という料金にしては、食事は少々質素と感じるかもしれない。しかし、そこには喧騒も排気ガスもない。
追っ手の尾行も決して許さない。
湖にしんしんと降る雪をみながら、隠れ家で過ごす代金としては、妥当ではないだろうか。
露天風呂が、男湯は崖上の原生林の中、女湯は湖面を見下ろす谷間にある。
その入口には「クマ、タヌキ、キツネなどが出る」とある。
タヌキならともかく、さすがにクマは困るが、大自然の中にある証拠でもあろう。
弱アルカリ性の湯は、飲泉もでき、源平の昔から効能には定評がある。
都会の毎日に疲れたとき、落人の湯に二人でこもるのも悪くはないはずだ。
大牧温泉観光旅館
富山県東砺波郡利賀村大牧44
0763(82)0363
\20,000 ～ （船賃\2,340）
31室
ＪＲ高岡駅からバス約80分小牧ダム下車、遊覧船で約30分。
http://www.oomaki.jp/
