シンボリックな鎌

鎌
ジャルダンが購入したのはもっと大きい、体全体を使って刈る大鎌
庭師が荒れ果てた庭を手入れするのに、画家を引き連れて大鎌を買いに行くシーンがあります。『刃も研いである、いい買い物をした』と庭師はご満悦だったのですが、このとき庭師が選んだのは、日本ではあまりお目にかかれないような大きな鎌です。その刃は、まさに死神が持つような鎌です。
映画の中では、たびたび「死」が登場します。それは画家の父の死だったり、2人の既知の友人・知人だったり……。彼らは時にそれを語り草として笑い飛ばして見せたりしますが、とりもなおさず「彼らがもはや若くはない」ということを再認識させられます。

庭師の仕事

菜園の庭師
ジャルダンによって、荒れていた庭も立派な菜園に
この映画に登場する庭師の仕事は、画家の荒れ果てた庭を手入れすることです。でも、モネの庭のような華やかさは映画の中に描かれていません。庭師が作るのは手入れができる範囲の菜園で、画家とその妻が食べるのに足る野菜たちです。そこに植えられるのは、サラダ菜やラディッシュ、ズッキーニ、トマト、カボチャ、インゲン……といった日々の糧になるものが中心で、ボタニカルガーデンのような装飾的植栽もありません。

ある日庭で枯れたバラを抜いた庭師は、画家のためにそのラベルを取っておきました。画家はかつて母親が愛でたバラを懐かしみ、市場でバラの苗を買ってきます。おそらく庭師によって植え付けられたであろうバラたち、物語の後半で『バラ園を見てくる』という庭師のセリフがあるので、きっと手入れも行き届いていたのでしょう。
昔からなりたかった庭師の仕事を得たジャルダンは、地道に着々と庭(菜園)を整えていきます。それはあたかも、彼の人生そのもののよう。自らを「労働者階級」というジャルダン、団地に住み、派手さも富もないけれど『それでも二人の娘を授かった』と、その平凡といえる人生に幸福を感じています。
そんな彼を、望みどおりに画家となったキャンバスはどう見ていたのでしょう。

観察するアーティスト

画家と庭師
享楽的なキャンバスと、酒も煙草も自制するジャルダン
画家は『時間をかけて、回りを観察するんだ』と言います。庭師は『俺が働いているときは、回りを観察している余裕なんてないよ』と応えます。が、本当にそうでしょうか?庭師はある程度菜園が整ってくると、画家に尋ねます。『少しは気を使ったか?』と。つまり虫がついていないかとか、水は足りているかとか、そういうことについてですが、これは「庭師として観察したか?」ということですよね。
また庭師は画家に絵のことを聞かれ、『絵はよくわからない』と答えますが、庭師もまた大地をカンバスに、植物を絵筆として立派な芸術作品といえる野菜を作り出すアーティストとも言えるのではないでしょうか。

それなりに名も財もなし酒も煙草も時には「ハッパ」も楽しむ享楽的な生活を送ってきたけれど、妻とは離婚調停中、愛人にも新しい彼氏がいるらしい、絵にも情熱がもてなくなって田舎に舞い戻ったキャンバス。相反して健康に気を使い、地に足をつけた生活をするジャルダン。2人はお互いの中に自分にはないものを見て惹かれあったようにも見えますが、それぞれの立場での観察眼を持つアーティストという点では共通項を持っていたように思います。

唯一のアドバイス

パリでの2人
さながら都会に出てきた田舎のネズミ?画家は庭師をある場所に連れて行きます
庭師は画家に一つだけアドバイスをします。『つねにナイフを持ち歩くといい。紐も一緒に。必ず役に立つから、忘れるなよ』と。庭師としては当然のことと思えるこの言葉も、この映画では実にシンボリックではないでしょうか。
ナイフは何かを断ち切るものです。そして紐は何かと何かを結びつけるものです。
人生も後半となって再開した2人が、「雇い主と庭師」あるいは「古い友人」という関係を飛び越して、深い絆で結ばれていきます。やがて来る「別れ」を予感しつつも。

庭師がいなくなったあと、菜園に画家は自ら水をやり始めます。そして彼のアドバイス通りにナイフと紐を持ち歩きます、必ず役に立つから。
後に彼の開いた個展には、庭師の望んだ「俺の好きなもの」を描いたたくさんの絵が並びます。庭師の長靴、二人で釣り上げた大きなコイ、庭師が育てた野菜……、それらが庭師が望んだ明るい色彩で描かれています。

この夏、ジャルダンは確かに画家の心に何かの種を播いたのです。庭師というものは、植物が類まれな再生能力を持っていることを知っています。そして荒れた庭も再生できることを知っています。
画家の心に播かれた種が「何か」は、説明できません。でも、くしくも画家が自ら語っています。『説明はない。感じれば良いんだ』と。





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