結局、亜種って何が違うの?
先述したように生物の分類学というのが混沌としていますから、そもそも「種」の定義自体に、さまざまな解釈があります。したがって、その下位分類である「亜種」の分け方にきっちりとした基準があろうはずがありません。多くは、ある地域の個体群に「色彩」「斑紋パターン」「体の各部の比」などに一定の共通性とか普遍性がある場合に亜種として扱われているようです。しかしこれでは、亜種のさらに下位とも考えることができる「地域個体群」との境目があやふやであることも多く難しい問題なのです。
サキシママダラの地域個体群(与那国島産) |
したがって外見だけに注目したとするならば、セマルハコガメのように、本当に亜種の関係として分ける必要があるの?という例もあれば、逆にアカマダラとサキシママダラのように、亜種どころじゃなくて別種じゃいかんの!?なんて例も多いです。あるいは日本のヤモリのように別種じゃなくて、亜種くらいでいいんじゃね?とかニホントカゲとかアカハライモリに見られるように外見的にはほとんど区別はできないが地域個体群間が遺伝的にはかなりかけ離れてしまっている、という例もあるわけです。
便利な言葉「タクソン」
こうなると、両爬がホビーの対象だろうが、単なる知識としての対象だろうが、気になるのはどこにこだわるべきなのかということです。そこで便利な言葉が「タクソンtaxon」です。タクソンの本来の意味は、分類学においては、属とか目とかのそれぞれの「階級」を表す言葉ですが、拡大解釈すると、それぞれの階級を構成する「単位の数」として使えます。
例えば日本に生息するヘビは42種類です。これは「種」を単位としていますのでアカマダラもサキシママダラも「合わせて1種」として数えています。なんか納得しにくい数え方ですよね。
じゃ、亜種を別にして数えれば42種17亜種です。しかしこれでは、よくわかりません。アカマダラの場合は1種2亜種ですし、バイカダの場合は種バイカダの中の亜種サキシマバイカダですから1種1亜種です。これにタクソンという言葉を強引に使えば、アカマダラとサキシママダラの2つのタクソン、サキシマバイカダという1つのタクソンです。
そう数えれば日本に生息するヘビは48タクソンということで、実にスッキリしたものになります。
ただ、繰り返しますが、これはタクソンの正しい使い方ではありませんのであしからず。
私たちにとっての亜種
では、両爬の飼育を趣味とする私たちにとって、亜種というのはどんな意味を持つのでしょう。もちろん、私のように両爬の趣味の中にコレクション性を持っている人間ならば、「全亜種コンプリート」みたいな、あまり感心してもらえなさそうな価値観を持っていますから重要です。あるグループの全タクソンを揃えるのはコレクターとして当然の気持ちですから。
また先述の属をまたいだ雑種が存在することに対して、同種の間でも別の亜種や地域個体群の間では繁殖行動がなされないという例も存在しています。そう考えると、自分が飼育している生き物の亜種や地域個体群が何であるのか、というのはもちろん重要になります。
また生態系の保護を目的として、飼育下で繁殖した個体を野生に戻すという事業を行う場合でも、亜種とか地域個体群とかは慎重に調べる必要があるのは言うまでもないでしょう。
あるいは、飼育技術にしても、その個体の飼育情報がない場合に、同種別亜種の飼育情報があればそれを参考にすることなどもできますから。
「亜種にこだわる」というのは、一見、神経質すぎたり、オタクっぽかったりする印象はありますが、何よりも自分が飼育している、その生き物の正体を、きちんとした科学的根拠をもって明らかにするというのは、その個体を愛しているからこそ重要なのではないでしょうか。
その個体を、何も気にせずに愛することももちろん重要ですが、「生物」として生態や生物学的な位置づけにも興味を持つことは、この趣味を豊かにする材料になると思います。
みなさんも、めんどくさがらずに、ちょっとその生き物にどんな亜種がいるのかに興味を持ってみてはいかがでしょう。