学名
なんだかよくわからないアルファベットの羅列であり、それを使って話していたりすると、とってもオタク臭がプンプン漂ってくるみたいで、どうしても好きになれない人も多いのが、生き物の「学名」でしょう。学名に関して語るためには、どうしても分類学の話をしないといけないのですが、生物の分類学は、非常に混沌としていて、極端に言えば分類学者一人ひとりが、生き物の分類の仕方について異なる考え方を持っていると言えるような学問です。
ですから、ここでは生物学上のさまざまな大切な考え方は割愛して、あくまで現在、もっとも一般的に使われている生物の分類である、リンネが行った二名法に関して簡単に触れておきましょう。
まず地球上の生物を「動物界」「植物界」「菌界」の3つの「界」に分け、そこからさらに「門」「綱」「目」「科」「属」「種」と段階をつけて、ある生物を特定しています。
例えば、アカマダラならば
動物界 脊索動物門 爬虫綱 有鱗目 ナミヘビ科 マダラヘビ属 アカマダラ
となります。
そして、これを全世界の自然科学者の共通の認識となるように「学名」で表記することになります。学名はラテン語の文法でつけられていますが、リンネが考案した二名法つまり「属」名と「種」名の二つを組み合わせて表示しています。アカマダラの場合はマダラヘビ属(Dinodon 属)で種名がrufozonatum ですので、学名は
Dinodon rufozonatum
となります。ただし、正確にはそのあとに、はじめてその種を記載した人物とその記載年を表示することになり
Dinodon rufozonatum (Cantor, 1842)
ということになります。
さらに亜種がある場合は、亜種名を種名のあとに入れます。基亜種では種名と亜種名が同じになりますから、基亜種としてのアカマダラは記載者と記載年を省略した場合は
Dinodon rufozonatum rufozonatum
となります。
そして、別亜種であるサキシママダラは
Dinodon rufozonatum walli
です。
先に登場したラットスネークは、種としてコモンラットスネークならば
Elaphe obsoleta
基亜種ブラックラットスネークは
Elaphe obsoleta obsoleta
ですね。
こうすることで、亜種名を学名で書くと、正確に表現できるわけです。
亜種
さて、で「亜種」です。亜種という言葉は、最近はゲームの影響か、耳にすることも多くなってきたような気がします。だいたい、エラそうに語っている私にしたって、本家「じゃぷれっぷ」を開く時に、友人に「亜種ってどうやって考えればいいのかな?」なんて素朴な質問をしていたんですから。
以前、同僚の国語の先生に「亜」という漢字について尋ねたのですが、どうやらこの漢字はいわゆる表形文字の一種で、古代の「お墓」を表す形が元になっているそうです。つまり埋葬のために掘られた穴を上から見た形であるとか。そこから、この字は「墓は次世代の者が管理する」という考え方から、「次」とか「二つめ」とか、「それに続く」とか「準ずる」などの意味を持ったようです。
したがって、「亜種」というのは「『種』に準ずる」、あるいは「『種』の下の分類」という意味になるわけです。
つまり「別の種として独立させるほどではないが、だからといって今まで認められていた他の種類とは、明らかに違う感じの個体群」というのが、特に両爬の世界では近い認識でしょう。もう、読んで字のごとく「あやふや」とか「ビミョー」という表現がぴったりな使われ方です。
さらに分類に携わる自然科学者には「なるべく細かく分けて考えよう」という考え方もあれば、「できるだけまとめて考えよう」という正反対の考え方の立場まで存在しますから、「亜種」なんて本当に立つ瀬がなく、別種として独立させられたり、あるいは単なる地域個体群とか個体差と片付けられてしまうことも多いわけです。
亜種間雑種
ときどき耳にするのですが「別種の間では雑種ができても繁殖ができないが亜種の間は雑種ができても生殖能力がある」として亜種を定義づけようとする考え方があります。つまり「『種』とは子孫を作れる関係」という考え方です。極端に言えば、私たちヒトは、植物であるタンポポとの間に子孫を作ることはできないからヒトとタンポポは別の種類の生き物である、という非常にわかりやすい考え方です。
コーンスネークとカリフォルニアキングスネークの雑種・ジャングルコーン(アルビノ) |
しかし、爬虫類の場合はニホンイシガメとクサガメの間の雑種であるウンキュウやコーンスネークとカリフォルニアキングスネークの雑種であるジャングルコーンに生殖能力があったりします。これは「別種」どころか「属」を超えた「別属」同士の雑種ですから、生殖能力の有無が種を定義づける決め手であるとは言いにくいでしょう。