産卵の観察
さて、そのようなアカウミガメの状況を理解した上で、いよいよウミガメの産卵の観察のポイントをご紹介しましょう。・時期・・・5月下旬から7月下旬。特に6月中旬から7月初旬が多いようです。
・時間・・・一般的に日没後から真夜中になるまでが多いようです。20-23時くらいがベストでしょう。
・場所・・・茨城県以南の太平洋沿岸の砂浜。
・方法・・・砂浜をひたすら歩く。
簡単に言えば、上のような方法です。
それでは、もう少し細かくお話ししましょう。
まず、気になる天候ですが、どうやらあまり天候は関係ないようです。晴れていても、雨が降っていてもそれほど関係はないようです。また関係がありそうなものに「潮の干満」がありますが、これも大きな相関はわかっていないようです。
場所の選定ですが、やはりウミガメの産卵が有名になっている場所であることに超したことはありません。
できれば昼間のうちに下見をして、ウミガメの上陸の痕跡、つまりキャタピラ痕のようなものがあるかどうかを探してみるといいでしょう。
砂浜には徒歩で降りなくてはいけませんから、車の置き場所から砂浜まで安全にアクセスできる道も下見をしておきましょう。
砂浜に残るカメの足跡 |
撮影:河野澄雄 |
夜になって砂浜を歩いてカメを探すのですが、懐中電灯で照らしながら探しますが、探すのはあくまでも「カメの歩いた痕跡」です。海面は極力照らさないようにします。カメが警戒して上陸しなくなることがあるからです。また、歩くときも大声で騒いだりすることのないようにします。
上陸しているカメを見つけたら、極力懐中電灯で照らさず、なるべく遠くで見守りましょう。驚いて海に帰ってしまいます。産気づいている母親ガメが産卵できずに海に戻ってしまったら、カメがかわいそうであることは容易に想像できますよね。
カメは産卵に適した場所まで、歩いて移動しますが、我々が思っているよりもかなり海から離れた場所にまで行くことが多いようです。とにかく、産卵が始まるまではじっと待ちます。
産卵場所まで移動したカメは後ろ足で穴を掘りますが、この段階まで行くと、カメも決心するのか、多少人間が近づいても、行動を続けることが多いようです。静かに近づいて穴を掘る様子を観察してみましょう。
産卵中 |
撮影:中島義人 |
この時に、カメは入り口は小さく、中は広い穴を上手に掘るのですが、十分に中が広くなって後ろ足の両方が砂に接しなくなることで、その広さを理解するらしく、そこで穴掘りをやめて産卵をはじめます。
まれに、サメなどに食われたのか、後ろ足が短くなってしまった個体がいます。このような個体は穴の深さを測りとることができないのか、いつまでも延々穴掘りを続け、そのまま産卵をせずに海に帰ってしまいます。
産卵を始めると、周囲が多少明るくなっても中断することはないようです。それでも、邪魔をしたり、騒いだりしないことは当然でしょう。何しろ出産中なのですから。
泣いているように見えます |
この時に、よく言われるように「涙」を流しています。この涙は、単なる塩分代謝の一種で、カメは常に眼から余分な塩分を排出していますので、産卵時に限らず、オスだって四六時中「涙」を流しています。
しかし、そうとはわかっていても、この感動的な光景をさらに演出するに十分なものですから、一般の方と見るときには、あまり余計なことを言わないようにしましょう。
産卵が終わると、メスは砂で埋め戻しますが、その場所がわからなくなるように、前足も使って周囲をカモフラージュするようです。この時は、もうあちこちに大量の砂をぶちまっけますから、うっかりすると頭から砂をかぶることにもなりますので、要注意です。
穴掘りを始めてから、海に帰るまでの時間はさまざまですが、おおむね2時間くらいをみておけばいいでしょう。
ウミガメ観察のマナー
ここまでをしっかりと読んでくださった方ならば、必要はないと思うのですが、念のためウミガメを観察するときに注意しなくてはいけないことをまとめておきましょう。- ボランティアや研究者の方の邪魔をしない・・・おそらく、日本でウミガメの産卵で有名な砂浜は、シーズンの間、毎晩ボランティアの方々が調査で見回りをしていますので、砂浜で出会うことになりますが、必ず丁寧に挨拶をして、観察したい旨を伝えましょう。
- 大声を出したり、騒いだりしない
- むやみに海面や産卵前のウミガメを懐中電灯で照らさない
- ゴミを捨てない
- 砂浜に車で降りない
- むやみにウミガメに触らない
- できれば簡単でいいので記録をつける・・・時間と簡単な場所を記録して、地元の調査を行っている団体へデータととして提供することも大切です
と言うわけで、ウミガメの産卵を観察するのは時期と場所さえ恵まれれば、それほど難しいことではありません。
そして、観察できたならば、多くのことを私たちに学ばせてくれます。
しかし、そんな難しいことを感じなくたっていいと思います。
とにかく、これだけ大きくて危険がない野生動物を間近に見ることができた、それだけでもいいと思います。私たちの身近に、こんな野生動物がいたんだ、ということに気づくことができるだけでも素晴らしいことだと思います。
せっかく、今年はウミガメの当たり年ということですから、くれぐれもマナーを守ってウミガメに会いに行ってみてはいかがでしょうか?
<関連サイト>
日本ウミガメ協議会
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