アカウミガメの現状
日本のアカウミガメは、ボランティアの皆さんや多くの研究者の方々により、かなりデータが集められていて、もっとも多くのことがわかっている爬虫類と言えます。1年間で、日本で産卵上陸する個体数は、わずかに2000頭程度であると考えられています。
また世界中の海でウミガメは減少傾向であり、全種がワシントン条約(CITES)で付属書I掲載種とされて保護の対象になっています。もちろん、国内でも種の保存法によって保護されていますし、各県の天然記念物になっています。
先に述べた、ボランティアや研究者の方々の研究成果や地元の方たちの努力で、幸い日本のアカウミガメには、世界の他のウミガメたちほどの劇的な減少傾向は見られませんが、それでも彼らを脅かす多くの問題点があります。
その中でも、もっとも深刻なのが「砂浜の減少」でしょう。私の住む宮崎県でもそうなのですが、アカウミガメの産卵に適する砂浜がどんどん減っています。
20年前に私がはじめてアカウミガメに出会った砂浜も、今ではその幅が小さくなってしまって、今ではアカウミガメの上陸はできなくなってしまいました。
砂浜の減少の理由はよくわかっていないのですが、港湾などの海洋建造物、ダムや河川の護岸工事などによる土砂の供給の減少、などと考えられています。私たち人間が生活するために必要なことばかりなので、非常に微妙な問題なのですが...
また漁業での「混獲」もアカウミガメにとって大きな問題となっています。つまり、定置網などにウミガメが入ってしまったり、延縄などに食いついて死んでしまったりという事故です。幸い、ウミガメを食べる習慣がない地域では、ウミガメは「海の神様の使い」と神聖視されていることが多いので、そのまま海に放されることが多いということです。
結構ショッキングなのが、海に浮かんでいるビニール袋などのゴミをウミガメがクラゲなどの餌と間違えて、それを食ってしまっている事例が多いことです。これが直接の原因で命を落とすことがあるかどうかはわかっていませんが。
孵化放流事業
さらに、最近指摘されるのが、人工孵化放流事業です。つまり産卵された卵を掘り起こして、それを人工的に孵化して、仔ガメを放流するという事業です。もちろん、それによって人間や野犬などによる掘り起こしての食害から守ったり、仔ガメの生存率を上げたりする狙いがあるのですが、多くの問題を持つ可能性が指摘されています。
ウミガメにはTSD(温度性決定)があることがわかっていますので、人工的で一様な孵卵環境に置くことによる性比の偏りが心配されます。つまり自然孵化ならば埋められた卵の深さによる微妙な温度差によって性比のバランスが保たれていると考えると、人工下では例えばすべてオスになってしまったり、などのようなことがあり得ると指摘する意見もあるのです。
また、本来は夜間に海に帰る仔ガメを昼に放流することによって、かえって捕食率が上がってしまうようなことや、仔ガメが身につけなくてはいけない定位能力に悪い影響がある可能性も考えられています。
孵化して海へ帰る仔ガメ |
撮影:河野澄雄 |
むやみやたらに卵を掘り返して人工孵化を行うのではなく、自然な状況で孵化が行えるように環境を整えてあげたり、やむを得ず人工孵化を行う場合には、なるべく自然な環境で行うような工夫が必要なのかもしれません。