さまざまな「フタ」
さて、箱ガメにも種類があるように、このフタの仕方もいくつかの種類があります。もっとも一般的なのは、イシガメ科やヌマガメ科、曲頚類の「フタ」です。
これらの「箱ガメ」は腹甲のほぼ中央あたりに1カ所の蝶つがいを持っていて、そこから前の腹甲を使って前部を、後方の腹甲を使って後部を閉じることができます。
一方、ドロガメ属のカメは腹甲に2カ所の蝶つがいを持っています、つまり腹甲が三分割されていると考えればいいでしょう。これを使って前方と後方を完全に閉じることができます。
またハコスッポンやフタスッポンはごく前方に1カ所の蝶つがいがあり、前方のみフタをします。では、後方はどうするのかというと、後肢の付け根に大きな皮質のヒレ状の器官(フラップ)があって、それを使って後肢を収納した時のフタにします。
リクガメであるセオレガメは、名前からわかるように、腹甲ではなく背甲が可動式になっています。
背甲の後方に蝶つがいがあり、そこから後方が可動式になっています。つまり、そこを動かすことによって後肢と尾を収納してフタをするわけです。それでは頭部が保護できない、と。ご安心下さい。彼らは頭部を背甲の中に引っ込めた時に、前肢を頭の前に引き寄せてそれをフタ代わりにするのです。彼らの前肢には硬くて大きくな鱗が密生していますから、非常に丈夫なのです。
ホームセオレガメの背甲・緑色のラインが蝶つがい。ここより後方が可動 |
フタの役割
もちろん、フタをすることで大切な頭部や、弱点である軟らかい四肢の付け根などを守ることができます。箱ガメのフタは、かなり強い力で閉じられているようで、試しに私たちが開けようと思ってもなかなか動かすことができないくらいです。また、このフタは種類によってはかなり密閉性が高く、短時間ならば乾燥によって水分が失われるのを防ぐ働きもあると言われています。
しかし、飼育下では多くのカメは安心してしまうのか、あまりフタを閉じて箱ガメ化する姿は観察できなくなってしまう場合が多いし、飼育下で繁殖したCB個体の場合は、まったくしなくなります。
私の家でも5匹のセマルハコガメを幼体時から飼育しているのですが、フタを閉じたところは一回も見たことがありません。
ただし、有名な話ですが、ある種の箱ガメは、交尾中にメスがフタを閉めてしまうとオスの生殖器(ヘミペニス)が背甲とフタの間に「はさまって」しまって、とれなくなってしまうことがあるようです。しかもそのままメスが動き出してしまうと、オスは「はさまれたまま」ズルズルと引きずられてしまうことも多々あるとか。あ、痛たたたた....
と言うわけで、なぜか「フタができる」というだけなのですが、魅力的で人気がある種が多い「箱ガメ」たち。
ところが、天然記念物になっているセマルハコガメをはじめ、どの種も比較的生息地では減少傾向で保護されている種も多いのも現実です。
完璧で究極の防御を手にすることができた「箱ガメ」たちですが、乱獲や環境の悪化という敵の前では、無力だったようです。
幸い、鉄壁の防御を持っているからでしょうか、小型の種が多く飼育に適するため、多くの種が飼育下で繁殖に成功しているというのが唯一の救いです。
これからも、けなげな防御を続ける「箱ガメ」たちを大切にしていきたいものです。
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