両爬を研究するということ
さて、仮に見事に自分の行きたい大学へ合格できて、晴れてその大学へ入学できたとしましょう。もしかすると「こんなはずじゃなかった」とガッカリすることもあるかもしれません。
残念ですが私たちが趣味としている、いわゆる「両爬を飼育」するということは、ほとんど学問の対象になっていません。ですから「趣味の延長」として「両爬を学ぼう」という気持ちでは、見事に裏切られます。
特に外国の両爬に関して学ぶことができる大学などは、ほとんど日本にはないと言えます。
また生物学を学ぶ場合には「解剖」や「標本作製」など、生き物を殺さなくてはいけないような場面と出くわすことにもなります。
自分の経験を話すようになると年をとった証拠と言われますが、ちょっと私の経験を。
私は受験生当時は両爬ではなく「国産淡水魚」いわゆる川の雑魚の飼育を趣味としていました。ですから、魚をしっかりと学びたいと思い、水産系の大学を志望していました。
で、当時の自分の学力と図鑑で目にする研究者の先生のいる大学を基準に大学選びをして某大学農学部水産増殖学科に進学しました。
ところがいざ大学へ行ってみると、期待していたような勉強はできず、そういう意味では大学選びに失敗したかな、と思った時期があったのです。
ある川で調査のために魚の採集をして「これは飼育をしたい!」と思った魚でも、標本にしたり解剖をしたりしなくてはいけなくて、残念な思いをしたもんです。
しかし、陳腐な言い方になりますが、こういう基礎的な生物学というか自然科学を学んだ経験は、おおいに現在の私の趣味に生かされています。
さらに将来、両爬の研究者として一人前になろうと思えば、大学はもちろん大学院にまで進学する必要があります。
研究者と言われるようになるためには、世の中に認められる論文を書かなくてはいけません。
そのためには、外国の論文を読みあさらなくてはいけません。そのために語学力が必須です。実験結果を処理・分析するには数学(統計学)の力も必要になります。相手が生物だからと言っても必ず化学の知識が必要になりますし、生物地理学ならば地学の知識も必要になります。研究活動を続けるための体力も必要ですし、多くの研究者と情報交換をするための社会性も必要です。
好きなことだけをするためには、好きなこと以外のことも理解し、身につける必要があることを忘れてはいけません。
好きなことだから続けられそうですが、もしかすると好きなことが嫌いになってしまう可能性だってあるかもしれないのです。
両爬を大学で学ぶと言うことは、ある意味そこまでの覚悟を必要としていると思います。
最後に
でも、やっぱりもっとも大切なことは「両爬が好きなこと」です。私が行った大学は、当時水産増殖学科だけで35名の定員でした。しかし実際に「魚を学びたい」から入学していた学生はその半分もいなかったことを記憶しています。
もちろん四年間で、魚に対して興味を持ち研究者の道を歩んでいった友人もいますが、基本的には最後まで、魚に特別な思い入れを持たずに卒業していった友人の方が多かったと思います。
今は亡き、私の恩師も本音で「魚に興味を持っていない学生に、魚のことを教えてもつまらん」と言っていました。
ですから私が個人的に、その恩師に魚の話をしにいくと、それこそ昔からの友人だったように喜々として魚の話を聞いてくれたり、教えていただいたりしていました。
「好きだ」という気持ちこそが「研究」という険しい道を進んでいくエネルギーになります。
両爬を趣味としている中高生のみなさん、君のその気持ちは、進路の選択の大きな理由と可能性になります。学校の先生に、堂々と相談してみて下さい。
「先生、僕(私)は大学で両生爬虫類の勉強をしたいんですが」
と。
あ、でも全然学校の勉強をしてなかったら、返り討ちにあいますので、それだけは覚悟しましょう。
「じゃ、勉強しろ」
と。
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<参考リンク>
日本爬虫両棲類学会