猫の避妊手術直前の注意
猫の避妊手術・去勢手術の方法や流れと注意点
通常は12~18時間前から絶食が必要です。子猫の場合はもう少し短時間になります。
全身麻酔を施すと全身の力が抜けてしまい、もし胃の中に未消化物があれば、術中にそれを吐いてしまう可能性があります。吐いたものが気管や肺の中に入ると窒息や誤嚥性肺炎を起こす恐れがありますので、術前の夜の食事は抜いて、飲み水も飼い主が寝る前に片づけてしまいましょう。朝は何も飲み食いさせず病院へ連れて行きます。
猫の動物病院での避妊手術・去勢手術の流れ
これは一般的な動物病院の避妊手術の流れをご紹介します。
- ネコを預かる
- 再度触診、体温・心音をチェック
- 点滴のための留置針を入れる
- 麻酔前処置:軽い鎮静剤や鎮痛剤を注射 ※ジアゼパム、ミタゾラム、ブトロファノール、オピオイドなど
麻酔導入:ケタミン、プロポフォールなど
麻酔維持:ガス吸入麻酔-イソフルラン、セボフルランなど - 麻酔が完全にかかったことを確認後、心電図などモニタ機器の装着
- 点滴開始
- メスネコはおなかの毛、オスネコは睾丸周辺の毛を丁寧に剃る
- イソジンやアルコールなどで何回も消毒をし、滅菌布をかけて固定する
※麻酔前処置からここまで約20~30分程度 - 手術:子宮・卵巣摘出といった避妊手術の場合約40~50分
去勢手術の場合約15分 - ガス吸入麻酔を切り覚醒を確認
- メスの場合は1泊~入院
オスの場合は完全に麻酔から覚めたことを確認して退院
メスネコの避妊手術の方法
術後すぐ | 術後2週間 |
避妊手術にも様々な方法があります。手術前にどの方法をとるか、主治医の先生とよくご相談ください。
- 卵巣子宮摘出術
開腹して卵巣と子宮をすべて摘出します。
卵巣を摘出するとホルモンの影響を受けないので、発情しなくなります。また、子宮も摘出しますので、子宮内膜種・子宮蓄膿症・腫瘍などといった子宮に関する病気に罹りません。
- 卵巣摘出手術
開腹して卵巣だけを摘出します。
発情がなくなります。とはいえ、卵巣という臓器はほんのわずかな細胞が残っていても再生する能力が高いため、もし細胞が残っていれば卵巣摘出をしたはずなのに発情が起きることがあります。その場合でも、妊娠はしません。
卵巣摘出手術の利点は、卵巣・子宮摘出手術に比べると手術が短時間で傷口が小さくて済みます。 - 卵管結さつ手術開腹して卵管を糸で縛ります。妊娠はしませんが、発情は起きますし、卵巣や子宮のホルモン関係の病気にかかる可能性が残されます。手術も難しいので、この手術をする意味はないと思います。
- ジースインプラント手術・別名インプラント埋込手術
麻酔をかけ背部分の首の毛を刈り、切開し皮膚内に酢酸クロルマジノンを成分とする黄体ホルモンの入ったカプセル状のものを埋め込みます。
この術方の利点としては、手術が短時間で済み、インプラントしたものを除去すれば妊娠が可能になります。
しかし、臓器はそのままですし、黄体ホルモンを放出させ常時疑似妊娠状態をコントロールしているので子宮蓄膿症などを併発する確率が非常に高くなります。
動物用医薬品としての承認は発情抑制剤としてなので、メスにのみ適応されます。
ジースインプラント手術・インプラント埋込手術の注意点
発情中はインプラントを埋め込むことができません。
ネコ用は、薬効が1年なので、一度埋め込んで1年度に取り出しまた埋め込む手術が必要となります。
薬効期間を過ぎたものを埋め込んだまま放置しておくと子宮蓄膿症などの罹患率がかなり高くなるそうです。また、インプラントが埋め込まれた位置からずれてしまうこともあるので、取り出すときにやっかいなことになる可能性もあるそうです。
ジースインプラント手術・インプラント埋込手術の副作用体重が増加することがある。
時に脱毛することがある。
時に子宮疾患を発症することがある。
軽度の乳腺の発達を起こすことがある。 - ホルモン剤の投与
日本では手に入らないと思いますが、欧米では飲ませるタイプのホルモン剤を投与することがあります。主にブリーダーが使っているようです。
これも上記と同じような黄体ホルモンを飲ませて、疑似妊娠状態を保つのではないかと思います。
しかし、ホルモン剤投与をやめた後の妊娠で、ネコによっては奇形児を出産する報告例があります。ホルモン剤投与を中止して、どの程度期間を空けて妊娠させると問題がないのかは、そのネコそれぞれの個体差によって違いがあるようです。
オスネコの去勢手術の方法
- 精巣摘出
一番一般的な手術方法で、睾丸を切開して精巣を摘出します。切開した睾丸を縫わない病院の方が多いようですが、縫合したり、生体用接着剤で閉じるところもあるようです。
※我が家で手術経験のあるオスは誰も縫われたことがありません。しかし、縫われなくても出血したり傷口が開くことなど大事に至った経験はありません。ただし、術後1週間~は睾丸がどす黒く腫れ上がりちょっと痛々しく見えます。
手術して数年たつと、ほとんど残骸もわからないくらい袋が小さくしぼんでしまいます。 - パイプカット
精巣は摘出せず、精子の通り道を途中で切断する手術方法です。
メスネコを妊娠させることはなくなりますが、精巣が残っているとオスのホルモンは分泌されるので、姿形や行動的には去勢手術してないオスと同じ状態です。また、オスのホルモンが関係してる前立腺の病気や精巣の腫瘍を防ぐ効果もありません。
停留睾丸・片睾丸について
オスの場合、まれに外見上睾丸がひとつしか確認されない片睾丸、またはふたつとも確認できない状態のネコがいます。睾丸が陰嚢まで降りてきていない状態で、停留睾丸と呼ばれます。遺伝的に関係するものだといわれていますが、何が原因で停留睾丸になるかはっきりと解明されていません。遅くとも生後8ヶ月前後までに降りていない場合は、その後も降りる可能性が低いでしょう。
睾丸が停留している場所は、おなかと足との境目の鼠径部が最も多く、睾丸の付け根をさわるとかすかに確認できるかもしれません。睾丸がある場所が確認できれば手術は比較的楽に済みますが、中にはおなかの中のどこに睾丸があるか、なかなかわからない場合もあるようです。
しかし、経験豊富な獣医師であれば、睾丸が降りてくる道筋がわかっていますので、開腹手術になることを怖がらず相談してください。
停留睾丸の腫瘍発生率は正常な睾丸の10倍以上といわれています。通常外に出ている睾丸の中の精巣は低めの温度を保ちますが、体内に残された精巣はそれよりも高い温度状態にあります。適した温度でない場所にあるため、精巣は徐々に変化し、セルトリ細胞種と呼ばれる腫瘍になる確率が上がるようです。
また片睾丸で陰嚢の睾丸のみを摘出しても、体内に残った睾丸は温度が高いにもかかわらず精子が生き延びていてメスを妊娠させる可能性があります。性ホルモンに関する問題行動は、体内に睾丸が残っている場合治まらない事が多いようです。
どちらの手術に関してもいえることは、性ホルモンに関わる臓器を摘出しない限り妊娠しない・させないだけで、性衝動に関する問題行動は治まらない、また残っている臓器は病気に罹る可能性があります。
猫の避妊手術・去勢手術後の注意
術後のケアを欠かさないようにしよう
完全に麻酔が覚めるまでは、獣医師の管理下に置かれます。麻酔後は、胃腸が正常に働き出すのに時間がかかるため、食べたものを吐いてしまうことがありますので、通常は術後半日程度絶食が必要となります。手術中に輸液補給されているので大丈夫です。
ネコの性格によっては病院という見知らぬ場所にいるストレスや、自分に身に起こったことが理解できずショック状態に陥って、飼い主でさえ拒むような行動をみせることがあります。また一般的にネコは痛みを感じにくい動物だといわれますが、動くと傷口がつれるでしょうし、全く痛みを感じていないわけはないでしょう。
自宅に帰ってきて飼い主がかまおうとしても嫌がるそぶりを見せたら刺激しないようにしましょう。もし、ショックを受けてない風だとしても、数日間は激しい運動をさせない方が良いでしょう。
メスは、傷口に絆創膏を貼られたり、退院時に腹巻きのような胴衣を着せてられる、またはエリザベスカラー(私はパラポナアンテナと呼んでいますが)という首に装着する傷口をなめさせないための器具を渡される事があるでしょう。ネコに傷口を舐めたり糸を引っ張って傷口を開かせないようにするために必要です。
我が家の何度かの体験では、私は胴衣が一番安全かな?と思っています。エリザベスカラーをつけると、尻込みして固まったり、家具にぶつかって前に進めなくなったり、床の上のお皿に口を付けたくてもカラーが邪魔してできないなど、ネコに余計なストレスを与えるような気がします。もちろん、中にはカラーをつけても全然平気な子もいますので、その場合はカラー装着が安全でしょう。
しかし、多頭飼いの場合は身体に大きなエリザベスカラーをつけた見慣れない姿に、他のネコがパニックになったり喧嘩をふっかけたり…ということもありますので注意してあげてください。
どちらにしても、ネコが自分で傷口を舐められなければ良いので、あまり自分の身体をかまわなず、グルーミングをしない子の場合は、何もつけなくても抜糸まできれいな傷口を保つことができるでしょう。神経質な子は自分で舐めて糸を引き抜いてしまい、再度縫合……ということもありますので、傷口を舐めさせないように工夫してください。
消毒は特に必要ありません。
病院によっては、退院時に2~3日分の抗生物質を処方されるます。出されたお薬はきちんと時間を守って最後まで飲ませてください。なお、薬を処方されない病院もありますので、必ず抗生物質が必要とは限らないようです。
もし糸が取れてしまったり、舐めすぎて患部がただれた時は、早急に診察をお願いしましょう。術後3日くらい経っても元気・食欲がなくトイレもあまり使いたがらないようなときも、診察を受けた方が安心できるでしょう。しかし、エリザベスカラーをつけることで動かなくなってしまうネコもいるので、一度はずして様子を見て、それでも具合が悪そうなときは早急に先生に相談してください。
もし、オスネコとメスネコを飼っていて、オスネコの手術を済ませ帰宅したら、メスネコに発情が来ていて交配しちゃいました……なんてことがあったら。メスネコが妊娠する可能性は非常に高いですのでご注意を!
手術をしても、オスの体内には精子が残っていて、約24~72時間生きている可能性があります。ですから、もし発情中のメスがいる場合は、手術後1週間はオスネコと離しておいた方が無難でしょう。
避妊手術・去勢手術後の猫の長期的な管理
不妊手術をすると太りやすいといわれます。卵子や精子を作り出すエネルギーが消費されなくなりますし、性本能による行動もなくなり、代謝が落ちますから肥満になりやすくなるのは当然です。
また発情が来てから、発情中など性ホルモンが活発化しているときに手術をすると、ホルモンの不均等が起こりやすく、肥満傾向の拍車がかかるという説もありますので、可能であれば不妊手術は、性の目覚めの前に行いホルモンのアンバランスを事前に防ぐ方が肥満になりにくいかもしれません。
どちらにしても、術後体力が回復したら徐々にカロリーの少ない食餌に切り替え、今まで以上に遊んであげて運動させましょう。
さて、ここまででネコの不妊手術に関してのかなり詳しい内容をお伝えしてきました。どんなことも、自分がその内容をきちんと理解することから始めた方がよいのでは?と、思います。手術が怖い、麻酔はイヤだ、と感情論だけで不妊手術を拒否しないでください。
責任を持って面倒を見ることができない子猫を産ませないために、
大切な自分のネコの将来的な健康状態を安定させるために、
不妊手術は必要ではないか、と私は思っています。
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