「記憶の遺産」を通じて知る世界遺産と歴史の関係
ビルケナウ収容所に捧げられた花束と祈る女性。©NHK「探検ロマン世界遺産」 |
歴史や記憶と言えば、建物の価値というよりも「記憶」することの価値を重視して世界遺産に登録されている「負の遺産」があります。3月29日のスペシャルではアウシュビッツと原爆ドームに焦点を当てるそうですが、これもそのような視点から描いているのですか?
寺井CP:
そうです。ただ、両者の歴史はあまりに重く、軽々しく「ロマン」などと語れるものではないため、この回はDr.ロマンは冒頭にだけ登場、リポーターも使っていません。
ガイド:
負の遺産の何を伝えたいのですか?
寺井CP:
よく「負の遺産」と言われていますが、ユネスコの文書では「記憶の遺産」と表記されています。アウシュビッツは1979年に世界遺産に登録されたのですが、建物自体に価値がないことは推薦したポーランドの人たちも認めています。しかし彼らは「ここで行われたことを記憶して後世に伝えなければならない」ということでアウシュビッツを推薦し、史上はじめて「記憶」が認定基準となって登録を実現しました。アウシュビッツには収容された人々の衣服や刈られた髪の毛までそのまま残されており、それをなんとしても後世に伝えようという人々の想いに支えられています。たとえばアウシュビッツから脱走した87歳になるある老人は、その記憶を風化させまいと、当時そこでいったい何が行われたのかを、日々語り歩いています。
ガイド:
原爆ドームの方は?
原爆ドーム。©NHK「探検ロマン世界遺産」 |
日本が原爆ドームを推薦した際、2か国が不支持を表明しました。中国は「戦争責任を果たしていない」と非難し、アメリカは「原爆の投下によって戦争は早期に終結された」とその正当性を主張しました。しかし、そこにいる人たちに何が起きたのか、国と国という関係を越えたところでそれを記憶しなければならないということで、1996年に世界遺産に登録されました。実は、被爆者の中には戦争中に日本にやってきて広島で被爆した朝鮮半島出身者の方々もたくさんいました。彼らは長年被爆者として認定されなかったために何の補償も受けられず、本国に帰っても被爆した事実を人に言うことさえできず、ボロボロの身体で数十年を生きてきました。国という枠を越えて、起きたことを記憶し残すこと。それがいかに大切か、番組で感じてほしいと思います。また、それが中国やアメリカに対する答えにもなるのではないかと考えています。
ガイド:
最後にひとことお願いします。
寺井CP:
今後も世界遺産をテーマに、もっとたくさんの歴史や物語を紹介します。みなさんが「おもしろい」と思えるような番組を作りたいと思っています。
ガイド:
期待しています。ありがとうございました。シリーズ「世界遺産人」、第2回はNHK「探検ロマン世界遺産」寺井友秀チーフ・プロデューサーでした。今後も世界遺産に関係する様々な方々を紹介していきますので、お楽しみに。
■「探検ロマン世界遺産スペシャル」 記憶の遺産 ~アウシュビッツ・ヒロシマからのメッセージ~
(3月29日土曜日19:30~20:43 NHK総合)
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