歴史の中に生きる「人」を描く「探検ロマン世界遺産」
サン・ピエトロ大聖堂内部。光注ぐこのミケランジェロのドームの下に、歴代教皇が眠っている。©NHK「探検ロマン世界遺産」 |
取り上げる世界遺産や紹介する切り口も、寺井さんが決めているのですか?
寺井CP:
ラインナップはだいたい私が決めています。チーフ・プロデューサーの下にサブのプロデューサーとデスク、さらにディレクターがいて、現在約15名で動いています。一つひとつの世界遺産をどう見せていくかという部分は、私とそれぞれのディレクターで世界遺産を調べながら決めていきます。
ガイド:
取材はかなり下調べをしてから行くのですか?
寺井CP:
撮影場所は調べていきますが、確定した台本はほとんど作りません。偶然の出会いを大切にしています。特に現地に行ってからの人との出会いによって、物語は何倍にも膨らみます。
ガイド:
たとえば?
眠りについたヨハネ・パウロ2世。©NHK「探検ロマン世界遺産」 |
たとえばバチカン市国に取材に出かけたとき、ちょうど撮影中だった2005年4月2日に教皇ヨハネ・パウロ2世が亡くなりました。予定通り建物の撮影を続けることはできなくなってしまったのですが、一応撮影は許されました。やがてローマには世界中からカトリックの信者たちが集まってきて、道路が群集で埋まり、人々は路上で寝泊まりしながら葬列に並びました。遺体はサン・ピエトロ大聖堂に運ばれたのですが、大聖堂には歴代教皇の棺が垂直に並んでいて、その上にはミケランジェロのドームが光り輝いています。こうしてヨハネ・パウロ2世は歴史の一部になりました。いつもこのような大きな物語に出会えるとは限りませんが、歴史を作っているのは人ですし、TVのおもしろさも人です。歴史を背負ってそこに住む人たちがいるのですから、そこに行き、彼らと出会い、話を聞いてこそ、歴史の流れが見えてくるのだと思います。
ガイド:
そこから世界遺産の何を描きたいと考えているのですか?
嘆きの壁のユダヤ人親子。©NHK「探検ロマン世界遺産」 |
もうひとつエルサレムを例に出すと、エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラムという3大宗教の聖地で、長い歴史があるだけでなく、現在も領有権がはっきりせず、争いの絶えない場所です。ここで取材したときに、イスラムの開祖ムハンマドの直弟子の末裔を名乗るモスクの管理者と話をしました。彼は11~13世紀の十字軍の話を出して、「先祖が十字軍によって殺された」と昨日のことのように涙ながらに訴えました。世界遺産の一つひとつの建物にはもちろん歴史があるのですが、このような無名の一人ひとりにも深い物語があります。こうした物語の全体が歴史であり、人々はまさにその歴史の中に生きています。彼らがなぜここを守ろうとするのか? そもそもなぜこの建物を建てねばならなかったのか? 個々の建物の価値や芸術性も大切なのですが、過去そこに暮らした人、いまそこに住んでいる人、そういった「人」に焦点を当てることでこそ、歴史の流れに生きる私たち人間を描くことができるのではないかと思います。
人を描くことの意味と世界遺産を楽しむコツは次のページへ。