世界文化遺産の魅力
キリマンジャロ山頂の氷の一部が採取され研究されている。氷の中に含まれる気泡や塵などから、大昔の環境変動を裏付ける証拠が見つかっている。©TBS「世界遺産」 ※写真はクリックで拡大 |
では文化遺産の魅力は何でしょうか?
高城ディレクター:
文化遺産の場合は自然遺産と違って、何もしなければただたたずんでいるだけで表情を変えることがありません。そのまま撮影したのでは普通の建物にしか映りませんから、照明を当てたり角度を変えたりして、表情をこちらで与えていかなければなりません。また、文化遺産は見た目だけでなく、そこに様々な歴史が込められています。その歴史を紐解きながら撮影方法を考えることで、文化遺産は生き生きと表情を持ってきます。文化遺産にはこうして創り上げる喜びがあります。
ガイド:
印象に残っている文化遺産は何ですか?
高城ディレクター:
いろいろありますが、たとえば今回の「氷河」の冒頭に登場する自由の女神像です。もともと自由の女神像を深く考えたことはなくて、最初はいったい何でできているのかも知りませんでした。銅版を組み合わせてできていると知ったときには驚きましたが、さらにその骨組みがエッフェル塔を造ったギュスターブ・エッフェルが設計したことがわかり、彼がパナマ運河の水門も手がけていることを知り、とても感動したのを覚えています。また、自由の女神像が見下ろすセントラルパークには先ほどお話したとおり迷子石が転がっていますが、それによってニューヨークが氷河に覆われていたことも知りましたし、以前自由の女神像を取材したのはちょうど9・11の事件の直前だったのですが、そんな歴史も考えさせられます。こうしてそれまで点でしかなかった歴史がつながってくると本当にいろいろなことを考えさせられます。
TBS「世界遺産」を通して伝えたいこと
スイス、ユングフラウの美しい峰々と氷河地形。ここで人類ははじめて「風景を発見した」と言われる。©TBS「世界遺産」 ※写真はクリックで拡大 |
行ってガッカリした世界遺産などもあるのですか?
高城ディレクター:
よく言うのですが「読んでビックリ、見てガッカリ」という世界遺産はたしかにあります。世界遺産の登録理由には、その遺産が世界史上で重要な役割を果たしたことなどが書き連ねられているのですが、実際行ってみると「これだけ?」と思うこともあります。でも、歴史を調べてみるとたしかにおもしろくて、有名な世界遺産もそんな小さな世界遺産も、一つひとつは同じ価値があるわけです。世界遺産にはいろいろな民族の思いや歴史がつまっていますから、見方によってとても愛おしく思えてきたり、撮り方によって味が出てきたりします。それを上手に見せて視聴者に伝えるのもまた楽しいですし、その結果みなさんから「こんなところもあったんですね」などと反響がくるととてもうれしいですね。
ガイド:
ちなみにこれまででもっとも視聴率がよかったのはどの世界遺産ですか?
高城ディレクター:
イグアスの滝です。実は視聴率はあまり読めなくて、有名な世界遺産がそれほどでなかったこともありますし、まったく無名なのによかったところもあれば、地味な場所で視聴率も地味だったこともあります。ただ、いまのところイグアスの滝は不動の1位となっています。
北極圏に近いグリーンランドの海。氷の減少はイヌイットにとって死活問題になりつつある。©TBS「世界遺産」 ※写真はクリックで拡大 |
最後に、世界遺産を通して視聴者に何を伝えたいですか?
高城ディレクター:
「世界遺産」では毎回一つひとつの世界遺産を30分で優劣つけることなく紹介しています。その1本1本に声高なメッセージがあるわけではありませんが、世界遺産はそれぞれいろいろなことを教えてくれます。世界にはまだまだ知らない場所は山ほどありますし、それぞれピラミッドやマチュピチュに匹敵する歴史や意味があるわけです。私たちが紹介することで、そんな一つひとつの世界遺産に目を向けるきっかけになってくれたら、と思っています。
ガイド:
ありがとうございます。シリーズ「世界遺産人」、第1回はTBS「世界遺産」高城ディレクターでした。今後も世界遺産に関係する様々な方々を紹介していきます。お楽しみに。
【関連記事&サイト】
<前のページへ |