食を通して、人と人との絆を深めたい
「食べ物は皆で分け合うもの」……韓国の基本的精神です。 |
A.韓国は歴史的に貧しい時期があったので、みんなで食べ物を分け合うという習慣が根付いているんです。「콩알 하나라도 나눠 먹어야지(コンアル ハナラド ナノモゴヤジ/一粒の豆でもみんなで分け合わなければ)」という言葉があるほどです。道で知り合いに会うと、挨拶代わりに「밥 먹었니?(パン モゴンニ?/ごはん食べた?)」って聞いて、相手が食べていなかったら必ず何か食べさせる。僕の母親もずっとそうでした。僕は韓国で暮らしたことはないですが、『食客』に出てくる人々のやりとりは、昔から母親がこんなこと言っていたなあと思うことばかりです。そういう意味で、ソンチャンの考え方に共感するところは多かったですね。
Q.やはり、料理研究家であるお母様の影響が大きいんですね。
A.僕が料理研究家になったのは、韓国料理をもっと日本に知らせたいというのもありますが、やはり食を通して人と人との絆を深めるという活動をしていきたかったからです。母親が自分にしてくれたことを伝えたいという思いが強かった。僕は小さい頃から家族との夕飯の時間が一番楽しかったんです。学校の悩みなどは家族に全部話していたし、逆に親同士の会話を聞いて、社会勉強になることもあったし。子どもの頃から大人に交じっていろんな話をすることは、その後の人間形成にきっと良い影響を及ぼすと思います。
Q.ソンチャン寄りのコウケンテツさんですが、逆にボンジュのように世界を目指してギラギラしている料理人についてはどう思いますか?
A.料理する人って、元々ギラギラしている人が多いですよ(笑)。自分は性格的にソンチャンに似ているし、フュージョン料理というのもどうもしっくりこないんですが、全くボンジュの考え方に共感できないということはないですね。韓国料理を世界に広めていくというのは大事なことだと思うし、そのためには店の規模を広げていくことも必要。ソンチャンがそれをやり遂げるのはきっと難しいでしょう。だからこそ、対照的な2人の考え方を合体させる結末は素晴らしいと思いました。互いの違いを認めて、さらにその先に進んでいく。物語の方向性が秀逸でしたね。
Q.韓流ドラマの影響で、韓国料理もどんどん身近な存在になってきましたね。
A.いろいろなイベントに出演したり、教室で教えたりするたびに実感しますね。お母さんが韓国ドラマ、娘さんがK-POPにハマっているという親子連れの生徒さんもいらっしゃいますし。「あのドラマに出ていた料理が作りたい」っていうリクエストもたくさん受けます。ソウルの店にも、皆さん驚くぐらい詳しいですよ。だから僕も韓国に行ったときは、必ず情報を持ち帰るようにしていますね。美味しい店を探すのはもちろん、伝統的な食器や雑貨を買うのも楽しみの一つです。
Q.在日韓国人のコウケンテツさんから見た、韓流ブームとは?
A.本当にこんな時代が来るなんて考えられなかったです。韓国文化に興味を持つ日本人は一部のマニアックな人たちでしたから。それが、週末にちょっと韓国へ行ってきた、なんて、本当に両国が近くなったんだなあと思います。しかも、それを成し遂げてくれたのは、政治家でもなく、韓流ブームを巻き起こした日本の中高年女性たち。すごく歴史的なことをやってくれたな、と思います。一番健全な文化交流の形ではないでしょうか。
手軽に食卓に取り入れられる韓国料理について聞いてみました。次ページへGO!