窓は開いていた?
はるかはギョッとした。「そうか! でも、ドアの裏は見えないし、チェーンを開けて外に出るのも危険だと思ったからさ」
「じゃ、まだいるかもしれないじゃん。やだ。怖いよぉ」
「その窓の鍵をかけたらとりあえずは大丈夫だよ。早く出たら」
「うん。でも怖いよ」
「私がここにいるから」
「あ~怖かったぁ~ん」
心臓がドキドキしてる |
「あ~まだ心臓がドキドキしてる」
「早くパジャマ着なさい」
「うん。でも、はるちゃん、窓、開けてた?」
「ううん。あんたがすぐに入るって言うから。いつもは私のほうが遅いから開けて出てた。あんたが先に出るときも窓を開けたままにしてるのは知ってるから、入る前に窓はいつも閉めてたけどね」
「じゃ、さっきは窓を開けてなかったってこと? でも、見たら、少し開いてたんだよ」
「えー? じゃあ、やっぱり誰かが開けたってことかなあ。やだ~。のぞき? それともまさか、盗撮? ねえ、警察に言ったほうがいいかな?」
「めんどくさくない?」
「でも、もしさとみとか私とかの裸の写真やビデオでも撮られていたらどうすんの?」
「うーん。わかんない。でも、今から警察の人に来てもらってもさあ」
「まあねえ。こっちは2人とも風呂上りだしねえ。もう夜遅いし」
「被害があったかどうかもわかんないしさ。あーでも、怖かった~。心臓が止まるかと思ったよ」
「換気のためにいつも開けていたの、やばかったかもね」
「真ん中の家2軒は通路側にお風呂があるでしょ? どっちもいつも窓は開いてるよ。みんな換気のためだろうね。お風呂の後って、石鹸とかシャンプーの匂いがすごくするよね。窓の前通るとお風呂入ったなってわかるじゃん」
さとみがバスタオルをターバンのように頭に巻き上げて、冷蔵庫から風呂上りの缶ビールを取り出した。はるかは先に飲んでいた。ふうーっと深呼吸をするとやっと人心地が付いた気がした。テレビの音は小さくしたまま、2人で黙ってビールを飲んでいたが、さとみから話し出した。やはり、直接怖い思いをしただけに黙っていられないようだった。
「よくさあ、盗撮とかで男が捕まったとかニュースでやってるじゃん。あれってこんな感じでやっぱりのぞいていたり、ビデオとかで撮っていたのかも。ビデオとかカメラだったら残るもんね。それでその画像がネットで流されたり、怪しい店で裏ビデオみたいに売られたりして」
「って、そんなことのんきに言ってる場合じゃないよ」
「たしかにね。でも、考えたら、このアパートって誰でも入ってこれるよね。道路からの入り口の木の扉は鍵がかかってないし」
「ウチは通路側じゃなくて横にお風呂の窓があるからね。隣の塀との間はすこく狭くて、まさか人が入るとは思ってなかったよね。東側の入り口からウチは一番西側奥だから、知らない人が入って来るなんて考えもしなかった」
「でも、考えたら誰でも入ってこれるんだよね」
「そうねえ。誰でもってことは、不審者とか盗撮とかのぞきとかする人もってことでしょ。ちょっとこれまでは気にしなすぎだったかも」
さとみがインターネットで女性の防犯について調べてみると言って、ノートパソコンをダイニングテーブルに持ってきて電源をオンにした。