姉妹の住む家
姉妹ふたり暮らしで~す |
建物は築年数は古いものの、その分部屋が広い。同じ程度の家賃でもっと都心では新築のワンルームしか借りられないが、角地の8世帯木造モルタル2階建ての1階一番奥の2DKだ。1階のその部屋しか残っていなかったのだが、ふたり暮らしということ、他の部屋がいずれも家族の世帯だったことで安心感があったため、広さを重視して決めていた。畳の部屋だったが、フローリングマットを敷き詰めて、姉妹それぞれ一部屋ずつ使っている。浴室壁のタイルは古さを感じるが、浴槽そのものは入居時に新しくしてくれていた。
引越してきた当初からカーテンやらクッションやらのインテリアは、はるかがミシンを使ってフリルをふんだんに使った淡い色調のかわいらしいものばかりを作り上げていた。窓にはレースのカーテンとピンクサテンのカーテンがかかっており、ベッドカバーもおそろいのいわゆる女の子らしい部屋だ。遊びに来た友だちらは建物外観のイメージとまったく違う室内に驚き、インテリア雑誌に載ってもいいくらいだとそのかわいらしさに歓声を上げた。いかにも若い女の子好みの部屋なのだ。
はるかは専門学校の服飾科を出て憧れのメゾン(ファッション業界で会社、店のこと)に就職した。さとみは大学で経営学を専攻しており、将来は姉妹で成功しようと夢を抱いている。仲のいい姉妹でかつては喧嘩もよくしたものだが、大学生と会社員の生活時間はかなり違い喧嘩をする暇もなく、同じ屋根の下ながらそれぞれ別に暮らしているようなものだった。それでも出来るだけ一緒に買い物に行くようにしたり、食事や洗濯、掃除などでも協力し合っている。
ある土曜の夜、姉妹ではるかの給料後の外食にでかけた。月に一度のお約束なのだ。食事の後には夜11時まで営業している大型スーパーで買い物をした。日常的な飲食物は駅からの帰り道にあるコンビニで買うことが多いが、やはりスーパーならではの買い物も少なくないのだ。かさばる荷物を2人で手分けして持ち、笑い声を上げながら帰宅した。買い物をしまうのも賑やかだった。
「はるちゃん、これ早く冷蔵庫に入れたほうがいいんじゃない」
「さとみ、そんなこと言ってる間に自分で入れなさいよ」
「あ、これ、食べたい。すぐ食べよ」
「分かったから、早くかたづけて。それからお風呂入れてよ」
「はいは~い。あ、テレビ、テレビ。はるちゃん、リモコン取って」
「あんなののどこがいいの?」
「いいじゃん。おバカなところがかわいいんだから」
好きなお笑いの番組を見るためにテレビのスイッチを入れてから、さとみが浴室に行き湯の蛇口をひねった。建物の裏手横側に当たる面の浴槽の上に窓がある。窓の外にはスチール製の格子が取り付けられているので、換気のために入浴後にはよく窓を開けたままにしている。日頃からこの浴室の窓ガラスは閉めていても鍵をかけることはあまりなかった。窓の外はわずか数十センチほどのスペースしかなく、人が通るような場所ではない。実家に帰るときなど、2人で数日間家を空けるときにはさすがに鍵をかけたが、格子がついていることで鍵をかけるという意識があまりなかったのだ。
浴槽に湯を張っている間、テレビを見ながらさとみが一人でウケていて、はるかはかたづけをして洗濯物をたたんだ。実質的には2年2ヶ月しか年齢差はないのだが学年は3年違う。さとみが甘えん坊のせいかはるかはいかにもお姉さんらしかった。はるかが先に風呂に入ることにした。いつもより丁寧に髪を洗い、トリートメントも欠かさなかった。ふと気がついて浴室からさとみに声をかけた。