シーン2.日曜朝の来訪者
寝起きは誰だって無防備なもの。それにここは私たち家族のための家。誰に何を遠慮する必要があるの?それなのに……。 |
引っ越し荷物のダンボールも、越して2週間を過ぎる頃には大分すくなくなってきた。細かいものをより分けて引き出しに入れる作業、季節外の衣類を仕分ける作業。残っているのはそれくらいか。私もパート先探しを少しずつ始めた。ネットで検索すると、けっこう近所でも求人がある。これなら、家族にあまり迷惑をかけずに仕事をすることが出来るような気がする。
引っ越してからもう5回ほど、夫の実家を訪れた。引っ越し当日も夕飯の支度ができず、外食を検討していたらお義母さんが、天ぷらを揚げておそばを茹でたからこれから来なさいと電話をくれたのだ。ありがたくご馳走になりに行った。そんな具合に、その後もお夕飯をご馳走になったり、おひるをいただいたり。子どもたちもすっかり実家への道順を覚えて、長男などもう一人でも行けそうなくらいだ。大人の足で15分ほど、距離にして1キロ強といったところか。
「あんた、もう一家の主なんだから、部屋のマンガも全部引き取りなさいよね」。お義母さんに言われ、自室をそのままに放置していた夫は苦笑する。ダンボール20箱分のマンガ、どうするの? 私も苦笑するしかないけれど、お義母さんの言い分はもっともだ。昨夜もそんな風に和気藹々と夕飯をご馳走になり、のんびり歩いて帰宅した。ビールもいただいたので、いい気持ち。だから今日の日曜は、ゆっくり遅くまで寝て、それから午後、子どもたちと買い物にでも出ようと思っていた。夫は年度末の決算とやらで、日曜なのに出社。いつものように7時ごろドアをばたんと閉めて出て行く音を遠くに聞きながら「いってらっしゃい」と言ったけど、私はまた深い眠りに落ちていった……。
ばたん
ドアが鳴る。あれ、夫、忘れ物でもしたんだろうか。うっすら目を開けて時計を見る。7時45分。間違いない、忘れ物だね。仕方のないひと! 探してあげるか。よっこいしょと寝床から起き上がって、寝室にしている和室のふすまを開ける。子どもたちはとうに布団を抜け出して、毎週楽しみにしている実写の戦隊モノのTV番組をリビングのソファに座って観ている。その子どもたちが「あ。」と声を出して、開いたリビングドアを見やるのと、私がふすまを開いたのはほとんど同時だった。夫だとばかり思って一緒にリビングドアを見た私はその瞬間、凍りついた。そこに立っていたのは、夫ではなく、なんと義理の父だった。
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