その名前を聞いただけでは、そのかたちも音色も想像できないものだろう。ハープというからには、幾本か(あるいはそれ以上の)弦が張ってある弦楽器には違いないが、普通わかるのはそこまで。でも、私達は意外なところでこの楽器の音を、多分何度も聴いている。
オートハープ。耳慣れない楽器だけれど、それに限りなく近い音色は、存外、身近なものだったりする。 |
映画『第三の男』のテーマ曲。JR恵比寿駅の発車メロディにもなっている(そしてビールCMに使われている……こちらのほうが有名か)といえば「ああ、あれか」と思い当たる人も少なくないはず。♪タ~ララ~、ララ~ララ~♪ である。あの曲中に使用されている。分からないで聴いていると、きっとバンジョーやマンドリンを思い浮かべてしまうかも知れないが、「あの」音色はチター(オートハープの『原型』)のそれである。
その音色はいたって優しく、穏やか且つ、コードバーを押えることで多くの弦は自動的に調和し、澄んだ和音を響かせる。見た目は神話に出てくるような竪琴に似ているが、造りは非常にシステマティックだ。
先に書いたように、オートハープという楽器はもともとヨーロッパの古楽器「チター」を元に、約100年前にアメリカで作り出された。そのせいもあってか、いわゆるカントリーやアメリカ民謡といったジャンルで使用されることが多い。
日本でも、東海圏を中心に愛好家の組織があるという。また東海楽器が「クロマハープ」として、アリアが「コードハープ」として制作・販売するなど、ところどころで名称が異なることもあるけれど、同じ楽器だ。「オートハープ」という呼び名は米国のオスカー・シュミット社の商品名でもある。
箕田泰生さん。埼玉県さいたま市内で、「koto-koto-harp」という独自のブランディングでのオートハープ造りを行っている。国内でも数少ない演奏家としても、25年以上のキャリアを持つ。
制作途中の楽器。スズランを象ったyの字は泰生さんのy。 |