航空券/航空券関連情報

職人の国の“世界一安全”なエアライン(4ページ目)

安全性と技術力の高さゆえに、世界中の利用者から厚い信頼を獲得しているルフトハンザ ドイツ航空。伝統的な職人の国が育んだこの“世界一安全”なエアラインの舞台裏を探るため、ドイツ・ハンブルグに飛びました。

執筆者:秋本 俊二

多彩なエアラインの保有機材が集結


機体の整備ハンガーに続いて、航空機エンジンのオーバーホールが行われているブースへ。壁に掲示された作業中のリストを見ると、世界中のエアラインの保有機材がここルフトハンザテクニックに集まっていることが実感できます。それぞれの作業スペースに置かれているのは機体から取り外されたエンジンだけですが、それがどのエアラインのどの機体のエンジンかがわかるよう、各ボードには機体の写真付きで顧客会社名が表示されています。

photo-6
【左】エンジンの作業ブース。【右】世界中のエアライン機材が集結。

メガキャリアが国際長距離路線で使用している大型機もあれば、ローコストキャリアの小型機、さらに普段はあまり見ることのできない各国の政府専用機も目につきます。そして各テーブルには、機体整備ハンガーで見たものと同じような、作業手順などを記したワーキングシートが。一つひとつの作業状況は、そのシート上で確実に記録され、管理されていきます。

作業手順もチェック体制もここまで徹底されていれば、なるほど、ミスなどは起こりようがないかも知れない──私はそんな感想をウェスファルさんに伝えました。すると彼はにこっと微笑み、それから真顔になってしばらく考えたあと、ゆっくりと首を振って言ったのです。

「いいえ。残念ですが、その答えは“ノー”です。どんなに完璧に思えるチェック体制をつくっても、それは決して万全ではありません。人間は必ずミスを犯すものという発想に立って、念には念を入れた対策を練ることが重要なのです」

人間である以上、100%完璧はありえない!


テクノロジーの進歩で、空の安全は確実に向上しました。機体、エンジン、コンピュータシステム──そのどれをとっても技術的には大きな進化を遂げています。にもかかわらず、世界の空では整備不良によるトラブルが絶えません。これは他の航空会社の例ですが、メンテナンス作業後に整備士が昇降フラップの表面パネルを装着し忘れ、そのままパネルなしで空港を飛び立つといった単純ミスによるトラブルなども現実に起きています。

「先ほどからご覧いただいているように、整備士たちは厳しく定められた手順に従って作業を進めています。しかし日々同じような作業を繰り返していると、その反復が“慣れ”につながることがある。作業漏れなどのミスが生じる可能性は、常に考えておかなければなりません」とウェスファルさんは言います。「そうしたミスは、規則や制度で縛るだけでは防げないのです。最後の最後には、人の意識に頼るしか方法はない。100%の安全性をキープするという目標を従業員一人ひとりの意識の中に定着させる。そして現場では決して人任せにはせず、“これで本当に大丈夫か”ということをいつも自分自身に問いかけ、必ず自分たちの目で確認・チェックする。それが一番大事なのです」

photo-7
【左】自由に発言できる職場。【右】整備作業に余念がない技術者たち。

そこには、人間は必ずミスを起こすもの──という逆転の発想があるようです。その前提のもとで、ルフトハンザテクニックでは整備士が自らのミスを堂々と申告できる風土をつくりあげてきました。作業終了後のミーティングでは、整備士たちは自由に発言。そこである一人から「自分はミスを犯したかも知れない」という申告があれば、ただちに全員でその航空機の整備をもう一度やり直す……。

「そうしてミスが発見されればいいし、ときには作業をやり直しても、何の不具合も発見されないこともあります。しかしミスの申告が仮に本人の思い過ごしだったとしても、それを責める人など誰もいません」とウェスファルさん。「航空機の整備は、常に100%完璧であることが求められます。そのためのミス申告なら、責められるどころか、むしろ表彰されるべきじゃないですか」


≫≫≫ 次のページは「自分自身のブラッシュアップに最大の努力」
  • 前のページへ
  • 1
  • 3
  • 4
  • 5
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます