ミスを見逃さないトリプルチェック体制
現場を案内してくれたのは、広報担当のトーマス・ウェスファルさんです。中型機クラスなら一度に4、5機は格納できそうな巨大なハンガーが建ち並ぶ工場の敷地内。そのうちの一つを覗いてみると、ちょうどスターフライヤーの運航機材と同じA320-200のルフトハンザ機がドック入りしていました。
【左】整備中のA320-200。【右】トーマス・ウェスファルさん。 |
「いま行われているのは、前縁スラットの取り換え作業ですね」と、真下から機体を見上げながらウェスファルさんが説明します。「離陸時にバードストライクを起こしたための緊急修理です。鳥はまず機種右側面に、その後で右主翼前縁第2スラットにもぶつかったようです。ほら、前縁スラット部分が大きくへこんでいますでしょう。その取り換え作業が済んだあとは、機種側面の外皮の張り替えも行われる予定です」
機体ごとに数人ずつのグループに分かれ、黙々と作業を続けるエンジニアたち。現場のボードには、それぞれの作業手順などが詳しく書き記されたワーキングシートが貼り出されていました。どの作業にはどのツールを使う、といったことも細かく決まっているそうです。
「作業が終わると、誰がいつ作業したかといった記録がパーソナル番号とともにワーキングシートに残されます。その記録は、将来その機体が退役した以降も5年間にわたって保管されるんですよ」とウェスファルさん。「プロセスごとに作業状況をチェックする人はそれぞれに資格をもち、ダブルチェック、トリプルチェックの体制が敷かれています。そのチェックパーソンにもA、B、Cというランクがあり、最終チェックを行う人間は資格取得までに10年以上の経験が必要とされています」
2万5,000人のスタッフを世界の拠点に配置
そうしたダブルチェック、トリプルチェックの体制を維持するだけも、相当な数の人員が必要になるのではないか? 私がそう質問すると、ウェスファルさんはきっぱりとした口調で答えました。
「当然です。ルフトハンザテクニックでは現在、世界で約2万5,000人の社員が働いていますが、コストカットのために必要な人員を減らすという発想は私たちにはありません。また今後も、無理な人員削減などは絶対にしないでしょう。常に必要な人数で万全な作業ができるよう、計画的に社員を補充し、補充した社員は3年間という十分な時間をかけて教育します。高いレベルの技術者を必要な数だけきちんと現場に配置する、それなくして安全は守れないと考えています」
【左】作業手順が記されたワークシート。【右】汗を流す整備士たち。 |
私はそこで、ルフトハンザグループの会長、ヴォルフガング・マイヤーフーバー氏の経営報告記者会見(05年度)での発言を思い出しました。記録的な燃油価格高騰にもかかわらず営業利益が前年比50%増という高い比率で伸びていることに触れ、氏は次のように述べています──「航空会社にとって“安全”は当たり前のこと。そのためには、健全な企業経営により常に安定して収益を上げることが求められる。その収益を新機材の導入やメンテナンス技術の向上、新しい技術の開発に先行投資してきた結果が、今日のルフトハンザへの信頼となって結びついている」
現在使用している機材についても、ルフトハンザでは1時間の飛行あたり平均20時間を費やしての綿密な整備が行われている──そう説明してくれたウェスファルさん。まさに質実剛健、妥協を許さないドイツ人の職人気質に触れた思いがしました。
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