◇◆◇ パイロットたちの意外な職業病 ◇◆◇
慢性的な腰痛、人の命を預かる緊張感から精神面での疲労の蓄積──エアラインパイロットたちの“悩み”はいろいろです。そんななか、あるベテラン機長の一人が言っていました。「フライトを終えて帰宅しても、職業上の習慣がなかなか抜けない。それが悩みと言えば悩みかなァ」
コクピットでは、一つのスイッチを入れれば、必ず目的の機器が作動してくれる。そういう生活に慣れ切ってしまうと、家に帰ってからもつい同じような要求を家族にしてしまうらしい。毎朝奥さんが花壇の花に水をやるのが習慣になっていたら、たまにそれを忘れたりすると違和感を覚える。テレビのリモコンがいつもの決まった場所に見つからないと、そこでまたイライラ。
たしかにコクピットの中は人間工学的にじつにうまくつくられていて、手足によるクルーの操作が絶対に間違わないよう完璧に統制されています。それが当たり前のこととして身に浸みてしまうと、いつもある物が左右入れ替わっていただけで気になって仕方がない……。なるほど、これも、ある意味では“職業病”と言えるのでしょうか。
◇◆◇ 離陸の緊張感は着陸時の2倍? ◇◆◇
離陸と着陸はどちらが危険か? その質問もよく寄せられます。もちろん、一概にどちらとは言えません。事故が起こる確率は離陸滑走をスタートしてからの3分間と着陸前の8分間が最も高いとされ、航空界でこれは“魔の11分間”と言われています。
しかしパイロットたちにインタビューすると、「緊張感はランディングよりもテイクオフのときのほうが高い」と言う人が数の上では多いようですね。理由の一つは、着陸時にはスピードをどんどん落としてきているのに対して、離陸時は反対にスピードを増しているから。しかも燃料が満タンで重量が重いため、条件としては離陸のほうが厳しい。あるクルーの一人は「統計的に見て、離陸時の事故より着陸時の事故のほうが生存者数も多いようです」と教えてくれました。
◇◆◇ クルーたちの“天敵”──査察操縦士 ◇◆◇
エアラインの機長や副操縦士は一度ライセンスを取得しても、1年ごとに定期路線審査を受けなければなりません。査察操縦士(試験官役のパイロット)が同乗して実際の路線を飛び、技能や知識が審査されます。日頃慣れ親しんでいる路線でも油断は禁物。1年のあいだに空港システムの一部が変更になっていることもあり、査察操縦士の質問に答えられなかったり操縦に不手際があれば合格できません。
審査に合格しない場合はどうなるか。もう一度勉強や訓練のやり直しです。本人の名誉もがた落ちですし、再試験に合格するまでのあいだは当然飛ぶことはできません。同僚パイロットたちが操縦桿を握って活躍しているのを見上げながら、無念の日々を過ごすことになります。「エンジンが一つ故障したらどうするか?」「この空港での着陸復行の手順は?」──必死で操縦技能を披露している横でそんな意地悪な質問を繰り返す査察操縦士とは、多くのパイロットにとって煙たい存在かも知れませんね。
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