航空機には従来、ターボジェットやターボファンエンジンが推進システムとして用いられてきました。いずれもコンプレッサーで圧縮した空気に燃料を噴射し、点火する仕組みです。しかし飛行速度が音速(マッハ)の3倍以上にまで上がれば、わざわざコンプレッサーを使う必要はなく、前方からの気流を受け止めるだけで十分に圧縮された空気を得ることができます。走行中の車の窓から顔を出すと、スピードが速いほど顔に受ける風圧が強いでしょう。あの力を利用したのが、ラムジェットと呼ばれるジェットエンジンです。
ラムジェットでは、ファンを使わず、エンジンの空気取り入れ口を少しずつ狭めることで十分圧縮された空気をつくることができます。このとき、空気取り入れ口を通過した気流はマッハ1以下(亜音速)に減速され、燃焼器に流入します。
ただし、一つ問題があります。ラムジェットが最も高い性能を発揮するのは、飛行速度がマッハ3~5.5程度のとき。それ以上に速度が増すと、燃焼室の温度が上昇しすぎ、燃料が熱分解して“吸熱”現象を起こしてしまう。燃焼する際に放出する熱エネルギーを推進力に変えるのがエンジンの働きであり、ジェットエンジンとしてこれは致命的な欠点でした。
この問題を、燃焼器内の気流を超音速に保つことで解決しようというのが、現在開発が進められているスクラムジェットエンジン(SCRamjet=Supersonic Combustion Ramjet)です。 スクラムジェットエンジンは次世代の極超音速旅客機の推進システムとして最も有望視され、2001年6月には米航空宇宙局(NASA)がマッハ10で飛ぶ世界最速ジェット機のテスト飛行も行いました。