人間関係

「ここまで衰えていたなんて」。娘が絶望した84歳母の老いと、失われた「人として大事なこと」

認知症ではないのに、なぜ母は何もしなくなったのか――。80代の実母と同居を始めた59歳女性は、ともに暮らすなかで、母の心身の衰えを目の当たりにする。そして、その姿を通じて「人が人であるために大事なこと」に気づかされることになる。※画像:PIXTA

亀山 早苗

亀山 早苗

恋愛 ガイド

どうして男女は愛し合うのか、どうして憎み合うのか。出会わなくていい人と出会ってしまい、うまくいきたい人とうまくいかない……。独身同士の恋愛、結婚、婚外恋愛など、日々、取材を重ねつつ男女関係のことを記事や本に書きつづっている。

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母親を見ていると分かる「人が人であるために大事なこと」(画像:PIXTA)
母親を見ていると分かる「人が人であるために大事なこと」(画像:PIXTA)

令和7年の総務省の発表によると、2025年9月現在の日本の高齢者人口は3619万人、高齢者人口率は29.4%となった。また、九州大学の研究報告によると、2030年には約523万人、高齢者の7人に1人が認知症及び軽度認知障害になると推計されている。

加齢イコール認知症ではないけれど

45歳で離婚し、10年後に母親との同居を始めたユリエさん(59歳)。当時は26歳の娘と母との3人暮らしだった。

「そのとき母は80歳。父が亡くなって3年たって、まだ元気でしたが、実家に戻ってみると妙に家が汚れている。娘が『一緒に暮らしてもいいんじゃない?』と言いだしたので、母にそう言ったらうれしそうでした」

実家は借家だったので、ユリエさんの自宅に越してきてもらった。当初、家の中のものを全て持ってこようとしたので、ユリエさんと娘が大幅な断捨離を断行した。

「ものに執着しているように見えたけど、実際、私たちが捨ててしまうと文句も言わなかった。物忘れがひどいなと思った記憶があります」

同居が始まると、会社員のユリエさんと娘は朝から出掛け、夜まで帰らない。母は地域になじめなかったのか外に出ることもあまりなかったようだ。なんとかしなければと介護認定を受け、デイサービスなどに行かせたのだが、やはり楽しくはなさそうだった。

「といって実家近くに友達がいたわけでもない。考えてみたら、母は知り合いはいても友達はいないという人間関係しか築いてこなかったみたい。ケアマネやヘルパーさんが家に来るのも嫌がる方で、『家庭内のことを外に洩らすなんて』という、昔ながらの閉鎖的なマインドなんですよね」

料理の段取りが分からない

母のためにガスコンロをなくしてIHに変えたため、「1品でいいから、夕飯のおかずを作っておいて」と頼んで出掛けても、何一つできていなかった。

「料理は一人暮らしのころからあまりしていなかったようですね。段取りが分からないんだと思います。料理って頭を使うんですよね。こういう食材があるからこれを作ろう、2品作るためにどうやって段取りしたら効率的か。栄養バランスは大丈夫か。いろいろ考えるじゃないですか。でも母はそれができない。だからサラダを作っておいてと言って、材料を出しておけばカットくらいはできる。いつの間にかそこまで衰えていたことにショックを受けました」

通常の会話では、忘れっぽいこと以外には、特におかしなことを言うわけでもないので気づかなかったとユリエさんは言う。

刺激を嫌がる

「その他に気づいたのは、新しいものを嫌がること。もともとそういう性格で、警戒心が強くて心を開かないタイプだったとは思うんですが、それが強くなった。例えば新しい味も嫌がるんですよ。娘と3人でたまには外食でもと行ってみても、食べたことのないものは手を出さない。ドレッシングは昔ながらのフレンチ、最近人気の担々麺も『怖いから』と食べない。食べ物だけでなく、新しい情報もシャットアウトしているように見えます」

病院にも連れていったが、84歳という年齢相応の脳の萎縮はあるものの、特に認知症が進んでいるわけではないという。ただ、軽度認知障害は指摘された。自ら脳を刺激する生活をしない限り、認知症は進んでいくとも言われた。

「それを母に伝えて、何かやってみようと勧めたんです。そのときは本人もその気になるんですが、いざというと動きたがらない。週末、散歩に行こうと誘っても、今日は調子が悪いとか雨が降りそうだとか、いろいろ理由をつけて出ない」

そのうち、ユリエさんは「なんだかバカバカしくなってきちゃって」と苦笑した。もともと折り合いのいい母娘関係ではなかった。母は本当はユリエさんの兄である息子と暮らしたいのだ。だが兄は転勤族のため一緒には暮らせない。

「仕方なく、あんたのところに来てやったという気持ちがあるんですよ、母には。時々、わざと駄々をこねるような態度をとることもある。そんなのに振り回されていたら、私の生活が脅かされる。最近はそう思うようになりました」

母を見ていて分かったこと

ケアマネにもそのあたりの気持ちはさりげなく伝えたが、介護に携わる人たちには「なんだかんだ言っても親子なんだから、分かりあえるでしょ」とか「最後まで面倒をみるつもりで引き取ったんでしょ」という気持ちが透けてみえると彼女は言う。いっそ施設にと思っても、とにかく先立つものがない。

「もうじき娘が結婚するんです。近くに住んで手伝うと言ってくれますが、娘には娘の人生と夫となる人との大事な時間がある。今の状況をもう少し続けていくしかないと思いますが、母がどうしたいのか一向に分からないのがつらい。意志を聞いてもはっきり言わないし」

ただ、母を見ていて確実に言えるのは、「常に主体性をもつこと」「脳と肉体に刺激を与え続けること」がどれだけ重要かということだ。

ユリエさんは近くにある公共のスポーツ施設に通うようになった。

「自分は母のような高齢者にはなりたくないという思いだけが、今後の私を支えていくでしょうね」

ため息をつきながら、彼女はそうつぶやいた。

<参考>
・「統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-」(総務省)
・「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」(国立大学法人 九州大学)

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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