カラーコーディネート

映画『黒牢城(こくろうじょう)』の“黒”のイメージが描き出す「敗者の戦国」

本木雅弘、菅田将暉ら日本映画界を代表する豪華キャストが集結し、黒沢清監督がメガホンをとる戦国ミステリー大作『黒牢城(こくろうじょう)』。「黒」のイメージを通して、籠城という極限状況下の人間ドラマとして昇華し、日常や秩序の崩壊を描いています。

松本 英恵

松本 英恵

カラーコーディネート ガイド

カラーコーディネーター

パーソナルカラー、トレンドカラー、カラーマーケティング、色彩科学、色彩心理、カラーセラピー、色占いなどの知見を活用し、執筆、監修、講演などを行なっている。著書に『人を動かす「色」の科学』(サイエンス・アイ新書)などがある。

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2026年6月19日(金)全国公開となる映画『黒牢城(こくろうじょう)』。本木雅弘、菅田将暉ら日本映画界を代表する豪華キャストが集結し、黒沢清監督がメガホンをとる戦国ミステリー大作として、公開前から注目を集めています。

本木雅弘、菅田将暉ら日本映画界を代表する豪華キャストが集結!映画『黒牢城』
本木雅弘、菅田将暉ら日本映画界を代表する豪華キャストが集結! 映画『黒牢城』

原作は、米澤穂信の直木賞受賞作。本能寺の変の4年前、織田信長に突如反旗を翻した荒木村重が起こした「有岡城(ありおかじょう)の戦い」に着想を得た、歴史小説と本格ミステリーが融合した傑作です。

荒木村重(本木雅弘)と黒田官兵衛(菅田将暉)の対話劇・心理戦
荒木村重(本木雅弘)と黒田官兵衛(菅田将暉)の対話劇・心理戦

本作は、原作の核心となる4つの事件を踏襲しつつ、対話劇・心理戦中心に再構成。黒沢清監督らしい影・闇・不穏なカメラワークを生かし、ホラー・スリラー的なゾクゾク感や心理的恐怖が加味された作品となっています。

この作品において「黒」は、物語の背景やキャラクター、そして人間の心理を象徴する、非常に多層的なキーワードとして機能しています。本作における「黒」が持つ4つの意味を考察します。

黒田官兵衛の「黒」

最も直接的なのは、土牢に幽閉されている黒田官兵衛(菅田将暉)の姓の「黒」です。光の届かない地下の暗黒に潜みながら、頭脳だけで城内の人間を操り、事件の真相と荒木村重(本木雅弘)の破滅を見通す彼の不気味な存在そのものを指しています。

黒田官兵衛(菅田将暉)は有岡城の土牢に幽閉される
黒田官兵衛(菅田将暉)は有岡城の土牢に幽閉される

官兵衛は、物理的には閉じ込められているのに、誰よりも状況を見抜き、人間心理を読み、真相を暴いていく存在です。暗闇の中にいる者だけが、逆に人間の本質を見抜ける。この構造が、「黒」という題名に強く反映されています。

暗黒の土牢:物理的な「黒」

二つ目は、官兵衛が閉じ込められた、じめじめとした狭く暗い土牢の「黒」です。光が一切差さないその空間は、まさに「黒い牢の城」そのものであり、観客にも息苦しいほどの閉塞感を与えます。

映画では比較的広く開放感のある牢に変更されている(メイキング写真)
映画では比較的広く開放感のある牢に変更されている(メイキング写真)

原作では、湿気のある狭苦しい土牢ですが、映画では比較的広く開放感のある牢に変更されています。村重と官兵衛の対峙(たいじ)シーンをカメラで効果的に撮るための工夫により、心理的な「対話の密室感」が強調されます。

疑心暗鬼に染まる城内:心理的な「黒」

三つ目は、信長の容赦ない大軍に囲まれ、「誰かが裏切るかもしれない」「誰が敵で誰が味方か分からない」という、有岡城全体を覆う泥泥とした猜疑心や絶望という人間の心理的な闇(黒)です。

猜疑心に苛まれる荒木村重(本木雅弘)
猜疑心に苛まれる荒木村重(本木雅弘)

有岡城はまさに牢のような城であり、敵軍や孤立によって外部から切り離され、まるで牢獄のように閉じ込められた状態を象徴します。物語が進むにつれ、武将たちの心はどんどんこの「黒」に侵食されていきます。

地下の闇から一歩も動かない官兵衛の言葉が、城壁で囲まれた巨大な有岡城をじわじわと内側から腐らせていきます。官兵衛は直接手を下すことなく、村重自身に「城内の歪み」を暴かせ、自滅するように仕向けているのです。

「腹黒さ」と戦国の業

四つ目は、事件の裏に隠された、人間のエゴ、裏切り、保身、そして信仰を利用した欺瞞(ぎまん)など、武将や周囲の人間たちが抱える人間の醜悪な本性(腹黒さ)です。人間の心の底にあるビターな闇が、この「黒」に集約されています。

人間の醜悪な本性(腹黒さ)が顕になる
人間の醜悪な本性(腹黒さ)があらわになる

村重が信長に謀反を起こしたのは、「信長の非道(過酷な実力主義)」に対抗し、自分こそが武士としての義理や家臣を大切にする「正しい器の主君」であることを示すためでした。

しかし、事件を解き明かすたびに突きつけられるのは、家臣たちの裏切り、エゴ、偽善、そして自分自身の「信長と同じ冷酷さ」です。村重は事件を解決するごとに、自分が拠って立つ「大義名分」を失い、精神的に追い詰められていきます。

黒沢清監督の演出手法

黒沢清監督は、ホラー・サスペンスを中心に国内外で高く評価される独自のスタイルを持っています。その特徴の一つは、影・闇・照明のコントラストです。

衣装やセットにも「黒」が多く取り入れられている(メイキング写真)
衣装やセットにも「黒」が多く取り入れられている(メイキング写真)

衣装やセットにも「黒」が多く取り入れられていますが、照明監督との阿吽の呼吸で、光と影の美しさを追求。時代劇らしい重厚さと、現代的な洗練を両立させています。

戦国時代といえば、信長の革新、秀吉の出世、家康の天下統一のような「光」の物語が数多く創作されてきました。『黒牢城』は、籠城という極限状況下の人間ドラマとして昇華し、日常や秩序の崩壊を描いています。「黒」は滅びへ向かう色であり、黒というイメージを通して、「敗者の戦国」を描いています。

戦国~桃山時代の美意識と「黒」

村重は、織田信長を裏切った「謀反人」としての壮絶な前半生だけでなく、すべてを失った後、千利休の高弟「利休七哲」の一人に数えられた屈指の茶人(数寄者)として知られます。

村重は、千利休のトップクラスの弟子「荒木道薫」として、文化人の頂点に君臨し、一方の黒田官兵衛は、秀吉の最高参謀として天下統一を最前線で支えました。

戦国~桃山時代の美意識において、「黒」は単なる不吉ではありません。例えば、「黒楽茶碗」「煤けた庵」「墨跡」のように、「静けさ」「侘び」「極限まで削ぎ落とした精神性」を象徴する色でもあります。

映画『黒牢城』のテーマ「心を読め」
映画『黒牢城』のテーマ「心を読め」

『黒牢城』の世界もまさにそうで、華やかな戦国絵巻ではなく、闇の中で、ぎりぎり残った理性を見つめる物語になっています。『黒牢城』というタイトルが示すように、城そのものが牢獄であり、人の心も牢獄となりうるのです。そして、牢獄を出た後も人生は続いていく……。そのような意味が読み取れるのではないでしょうか。

作品情報

タイトル:黒牢城
配給:松竹
公開表記:2026年6月19日(金)全国公開
コピーライト:©米澤穂信/KADOKAWA ©2026映画「黒牢城」製作委員会
公式Webサイト:https://movies.shochiku.co.jp/kokurojo-movie/

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