食と健康

「脂肪肝」は命に関わる万病の元!「太っているだけ」と放置は危険? 心疾患・脳卒中・がんとの関係

【内科医が解説】健診で「脂肪肝」と指摘された人はいませんか? 実は脂肪肝は「少し太っているだけ」の問題ではありません。心疾患・脳卒中・がんなど全身の病気と深く関わることが最新研究で明らかになっています。メカニズムと対策法を解説します。(※画像:オリジナル画像)

萩原 圭祐

萩原 圭祐

レジリエンス医学と栄養・代謝 ガイド

1994年広島大学医学部卒業。2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。2011年大阪大学漢方医学寄附講座准教授を経て、2017年から2025年3月まで大阪大学先進融合医学共同研究講座特任教授として、先端医学から伝統医学、レジリエンス・ケトン食などの研究活動を行い、現在は、それらの知財の社会実装を目指している。

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新年度も2カ月が過ぎ、健診を受けた方の中には「去年より体重が増えた」「血圧が少し上がっていた」など、気になる結果があった方も多いことでしょう。健康診断や診察で「脂肪肝ですね」と言われた経験がある方もいると思います。脂肪肝とは、肝臓に脂肪が過剰にたまった状態のことです。

「痩せた方がいいんですか?」と診察室で質問される方もいます。もちろん、体重管理は脂肪肝の改善において大切です。しかし近年の研究では、脂肪肝は単に「痩せればよいもの」ではなく、代謝の乱れを通じて、がん・脳卒中・心疾患など、超高齢社会の日本が直面するさまざまな病気と深く関わっていることが明らかになってきました。分かりやすく解説します。

急増している脂肪肝……健診現場で感じるリアルな変化

30年以上前、内科医として最初に覚える検査の1つが腹部エコーでした。私自身も研修医の頃から数年間、多くの腹部エコー検査を行いました。脂肪肝になると、エコーでは肝臓が白っぽく見え、腎臓との明るさの差が目立ちます。これは「肝腎コントラスト」と呼ばれ、初期に学ぶ代表的な所見の1つでした。

当時は、B型肝炎やC型肝炎など、将来的に肝細胞がんへ進行する可能性のある患者さんが多かった時代です。リスクが低いと考えられていた脂肪肝は、今ほど注目されていませんでした。それから30年以上が経過し、抗ウイルス剤の発展によりB型肝炎やC型肝炎は1つのピークを終えました。

一方で、脂肪肝の方は、食の欧米化が進んだせいか、驚くほど増えているのです。私の実体験になりますが、担当する健診では、多い時には参加者の半分ほどが脂肪肝ということもあります。実際にデータで見ても、脂肪肝の有病率は1984~2005年の22.2%から、2011~2016年には29.6%へと、肥満の増加に伴って明らかに上昇しています(※1)。では痩せればいいのかというと、実は、そう単純ではないことも分かってきました。

お酒を飲まない人も要注意! 脂肪肝で高まる心疾患・脳卒中・がんのリスク

脂肪肝はからだのさまざまなところに影響する
脂肪肝はからだのさまざまなところに影響する

脂肪肝は2023年、「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」という長い名称に変わりました。これは、膨大な医学データの蓄積によって、病気の本質が明らかになってきたためです(※医学的な正式名称は「MASLD」ですが、本稿では分かりやすさのために以下の「脂肪肝」と記載します)。

「お酒が好きな人は、肝臓が悪い」というイメージは昔からありましたが、お酒を飲まないのに脂肪肝から肝硬変になることが分かってきたのです。肝細胞がんのリスクも上がることが報告されています(MASLD診療ガイドライン2026 日本消化器病学会・日本肝臓学会編)。そのため、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれたのですが、その影響が肝臓だけにとどまらないことが明らかになって、名称がMASLDへ変更されたのです。

580万人を対象とした海外の大規模研究では、脂肪肝になると心筋梗塞や脳卒中の心血管リスクが1.45倍に上昇することが示されています(※2)。日本においても、290万人を対象にした研究で、同様に心血管リスクが上昇することが確認されています(※4)。

病気のリスクは、それだけではありません。肝細胞がんにとどまらず、他のがんの発生リスクも高まるのです。海外のデータでは、大腸がんのリスクが1.64倍に上昇することが報告されており(MASLD診療ガイドライン2026)、その傾向は日本でも確認されています。また、膵がん・乳がん・婦人科がん・前立腺がんなど、さまざまながんのリスク上昇も報告されています(※3)。

脂肪肝はなぜ命に関わる病気のリスクを高めるのか? その意外なメカニズム

では、脂肪肝になると、なぜこれほど多くの病気につながるのでしょうか。

大きな理由は、「代謝の異常」と「慢性的な炎症」です。肥満が進むと、肝細胞に脂肪酸がたまり、その影響で肝細胞のミトコンドリアなどが傷つきます。すると炎症を起こす物質が増え、体内で慢性的な炎症が引き起こされます。

この慢性炎症が血管のしなやかさを低下させ、高血圧の原因となります。これによりインスリンの働きが悪化して糖尿病リスクが高まるのです。糖をうまく取り込めなくなることで、肝臓で中性脂肪が作られやすくなり、脂質異常症にもつながっていきます。慢性炎症は肝臓だけでなく、肝臓以外のがんのリスクを高めることも分かってきています。

怖く感じるかもしれませんが、脂肪肝は「少し肝機能が悪い」「少し太っている」というだけの問題ではありません。全身の病気につながる可能性のある、注意すべき状態なのです。

脂肪肝対策の基本は「適切な食事・運動」による体重管理! ケトン食という選択肢も

適切な食事・運動で体重管理が基本
適切な食事・運動で体重管理が基本

では、脂肪肝と言われたら、結局どうすればよいのでしょうか? 薬物治療の研究も進んでおり、糖の再吸収を抑えて体外に糖を排出しやすくするSGLT2阻害薬や、血糖値の上昇を抑え、食欲や体重にも影響するとされるGLP-1関連薬の効果も注目されています。しかしこれらの薬が脂肪肝の適応となるかは、まだ臨床研究の段階です。

まずは日常の食生活から見直すことが基本です。体重を減らせば、肝臓の脂肪の減少や線維化が改善することも分かっています。まずは甘いものを取るなどの過度な糖質依存の食生活を改め、和食中心の食事に切り替えることです。また、筋肉量の維持も大切です。適度な有酸素運動と、筋肉量を維持・増加させるレジスタンス運動を組み合わせることが推奨されます。

さらに本格的に食で整えたいという方には、「ケトン食療法」という選択肢もあります。私自身の研究分野ですが、ケトン食とは、糖質に頼る代謝から、脂肪をエネルギーとして使う代謝へ切り替える食事法です。脂肪を燃焼させ、脂肪の合成を抑制し、炎症を抑えられる可能性があります。

脂肪肝では、肝臓に脂肪がたまり、脂肪燃焼の代謝スイッチが入りにくくなります。ケトン食によって体内でケトン体を作り出しやすくすることで、脂肪燃焼を促し、肝臓にたまった脂肪を使いやすい状態へ導く可能性に注目しています。単なるカロリー制限ではなく、代謝そのものを整えるアプローチとして、海外でも研究が進められています(※5)。ただし、まだ少数例のパイロット研究になります。

いずれにしても、脂肪肝は万病のもとになり得るものです。生活習慣の見直しを、ぜひ今日から始めてみてください。

■出典
1. MASLD診療ガイドライン2026 日本消化器病学会・日本肝臓学会編https://www.nankodo.co.jp/g/g9784524273324/ 
2. Mantovani A, et al. Non-alcoholic fatty liver disease and risk of fatal and non-fatal cardiovascular events: an updated systematic review and meta-analysis. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2021 Nov;6(11):903-913. doi: 10.1016/S2468-1253(21)00308-3. DOI: 10.1016/S2468-1253(21)00308-3
3. Wakabayashi S, et al. Natural history of lean and non-lean metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease. J Gastroenterol. 2024 Jun;59(6):494-503. doi: 10.1007/s00535-024-02093-z. DOI: 10.1007/s00535-024-02093-z
4. Targher G, Byrne CD, Tilg H. MASLD: a systemic metabolic disorder with cardiovascular and malignant complications.Gut. 2024 Mar 7;73(4):691-702. doi: 10.1136/gutjnl-2023-330595. DOI: 10.1136/gutjnl-2023-330595
5. Ann M Farrell , et al. Very low energy ketogenic diet vs. Mediterranean diet for MASLD: Superior steatosis reduction in a randomised pilot study. JHERP 2026;8(5):101787. Doi: 10.1016/j.jhepr.2026.101787. 

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