
高齢になった両親を、子どもとしては当然、心配する。だが、現実は自分の生活もあるし、親を丸抱えすることはなかなかできない。いい年をした子どもたちは、そこに自分の将来を見るようで不安と葛藤を感じてしまう。
元気だと思っていたけど
「うちの父は77歳。一人で暮らしています。私は結婚が遅かったので子どももまだ小さいし、家が狭くて父を引き取るのも難しい。夫と父はあまり相性がよくないのも分かっているので」
父は二駅離れたところに住んでいるとアイミさん(47歳)は言う。結婚して10年、8歳と6歳の子がいて、彼女もまた毎日、パートで働いている。パート先が父の住むアパートの近くなので、日に1回は住まいをのぞき、食材を補充してくることもある。
「父は料理が得意だし、部屋もまあまあ片づいている。本人いわく、地元のサークルや老人会にもよく行くということで、今のところは大丈夫だと思っていたんです」
ただ先日、パートが休みの日に、アイミさんは一緒にランチをとろうと最寄り駅へ父を呼び出した。
「ちょうどうちの近所においしいイタリアンカフェができたんです。父はパスタが大好きなので、ごちそうしようと思って。でも駅で、意外な場面を見てしまったんです」
早めに着いたアイミさんが駅の改札口を見ていると、父が降りてきて改札を出ようとした。ところがなぜか立ち止まる。そして次の瞬間、反対側から若い女性が改札を入ろうとしたときに父は交通系ICカードをタッチしたのだ。改札の中で女性と父がぶつかるのが見えた。
父の行動にまさかと思いつつも否定できず
あわてて改札口へと走っていくと、女性が怒鳴り散らしている。駅員も走ってきた。
「彼女が言うには、『この人、私がタッチするタイミングで自分もわざとタッチした。そしてこの通路で私の体に触ったんです』って。その改札、入場も出場もできるタイプなんですよ。通常は向こうから人が来るのが分かれば、待つか別の改札から入りますよね。でも父はわざと同じタイミングでタッチしたと彼女は言う。確かにあのとき、父は一瞬、立ち止まっていましたからね。私もまさかと思いつつ、否定はできなくて……」
父は「そんなことするわけないだろ。偶然だよ」と怒りだした。結局、駅員が監視カメラを確認し、結果、やはり父の行動が怪しいということになった。女性は「ご家族の方ですか」とアイミさんに確認してきた。
「私も忙しいので、今後こういうことがないようによく見ていてください。今回は被害届は出しませんけどと、その方は去っていきました。あのタイミングを見ると、父は初めてやったわけではないのではないか。私はそう思わざるを得なかった」
予定通りランチに行き、そのことには触れずに父の真意を探ろうとしたが、父は何も言わなかった。濡れ衣を着せられて気分が悪いと、ランチ後は早々に帰っていった。
父への郵便を盗み見て
あるとき父の部屋へ行ってみると留守だった。合鍵で入り、それとなく部屋を見るとテーブルの上に封筒が置いてある。
「裏を見たら、とある大学名と女性の名前がありました。思わず中を見てみたら、父がその人に出したらしい手紙が入っていた。別の便せんに『このようなものを送られても困りますのでお返しします』と書いてありました。父が何を送ったんだろうと見てみたら、その人へのラブレターだったんです。その人はある大学の関係者で、父はどうやらその人が出たテレビや雑誌を見て好きになってしまったみたい。ラブレターの中身は非常にエロくて、言葉にはできないくらい。不快だっただろうなと思いました」
駅での一件といい、ラブレターといい、アイミさんはどう考えたらいいか分からなくなった。認知症なのか、あるいは父の女性への渇望なのか、孤独感が募っているのか……。
高齢者の「性と孤独」にどう対処すべきか
「父には内緒で、かかりつけ医を訪ねて相談しました。医師が言うには『認知症の傾向はほとんど見られない。一人暮らしが寂しいんでしょう。時々、夜になると泣きたくなると言っていたことはありますね』って。高齢者だからという意味ではなく、人は他人の孤独までは癒やせない。自分でなんとかしてもらうしかない。医師と相談して、本や音楽など一人でも楽しめることへ誘導していくしかないということになりました」
もともと父は本は読まない。アイミさんは考えた末、子どもたちが好きな漫画を父にもっていった。父は思いのほか気に入ったようで、もっと先を読みたいと言いだした。
「あとは図書館で借りてと言ったら、少し離れた図書館に通うようになったみたいです」
思春期の子どもの性欲をどうするか、みたいな話になってお恥ずかしいとアイミさんは言った。年をとっても性欲はある。そこに孤独感が重なれば、駅での一件のようなことになりかねない。頭ごなしに否定すると、人生長く生きてきた人だけにプライドが傷つくだろう。親の性にはなかなか踏み込めないが、他者への相談も含め、高齢者の性と孤独を周りがどう見ていくかが重要なのかもしれない。







