今回は、「お金があってもなくても不安を感じるのはなぜ?」という問いを通して、その根っこにあるものと、安心を手に入れるためのヒントを探ってみましょう。
「お金に関する不安」の第1位は世代を問わず「老後資金」
三井住友信託銀行が設置する「三井住友トラスト・資産のミライ研究所(ミライ研)」が2025年1月、全国の18歳~69歳1万人を対象に実施したアンケート調査によれば、「お金の不安」の第1位は、世代を問わず「老後資金」でした。では、なぜ多くの人が老後資金に不安を感じるのでしょうか。
その理由を複数回答で尋ねたところ、最も多かった回答が「老後の生活費の水準が分からないから」でした。
20代、30代の若年層では「年金の水準が分からない」「そもそも年金を受け取れるか不安」という声が多くありました。しかし、これらの回答は40代以降、年齢が上がるにつれて割合が減っています。
さらに、老後資金(公的年金のほかに、自分で準備しておく金額)として必要な金額を尋ねた質問では、どの年代でも4~5割の人が「必要額が分からない/見当がつかない」と答えています。
この結果からは、将来の生活が具体的に描けない“見通しのなさ”が、不安の正体なのかもと思えてきます。お金が「足りる・足りない」よりも、“どう使い、どう暮らすか”のイメージが持てないことが、老後の不安を大きくしているモトなのかもしれません。
どうすれば不安を和らげられるのか?
予測できない未来は、誰にとっても不安なものです。不安を小さくするには、将来の見通しを立て、いざというときに取れる行動の選択肢を増やし、支えを分散しておくことがポイントです。具体的に見ていきましょう。
●老後の見通しを“言葉にして”可視化する
まずは、老後の生活費をざっくりでもいいので数字にしてみましょう。「月20万円以内で暮らしたい」「家電の買い替えや医療費に毎年50万円は余裕を持ちたい」など、目安を言葉にすることが大切です。
次に、年金見込み額や預貯金、今後得られる可能性のある収入を合わせて整理すると、「どれくらい足りないのか」「何を準備すれば安心できるのか」が見えてきます。
例えば、年金が月12万円なら、あと8万円をどう補うか。働く・貯蓄を取り崩す・固定費を減らすなど、選択肢を具体化することで、不安が少しずつ現実的な計画に変わっていきます。
●お金以外の“支え”を育てる
老後の安心は、お金だけで成り立つものではありません。健康や人とのつながりも、人生を支える大切な資産です。
例えば、ウオーキングや軽い筋トレで体力を維持する、地域のボランティアや生きがいを感じられる趣味を通して人と交流する。そんな日々の積み重ねが、「心の支え」や「助け合いの関係」を生みます。
お金・健康・人とのつながり。どれか1つに偏るのではなく、3つの柱を育てておくことで、どれかが揺らいでも全体のバランスを保てるようになります。
●柔軟に考え行動する選択肢を持っておく
時代の変化に合わせて、柔軟に考え、動ける力を持っておくことも大切です。
「もう年だから」「自分には関係ない」と思ってしまうと、選択肢はどんどん狭まってしまいます。働き方1つとっても、いまは在宅ワークや短時間勤務など、年齢や体力に合わせて選べる時代。最新のデジタルツールに少しずつ慣れておくことで、できる仕事の幅も広がります。
また、節約や家計管理の情報、介護・医療制度の改正など、生活に関わる新しい情報にアンテナを張っておくことも安心につながります。
「知らなかった」「気付かなかった」を減らすことで、いざというときの対応力が高まり、不安を小さくできるのです。
手放せない不安を味方に変える
「お金があってもなくても不安を感じる」のは、裏を返せば「安心して生きたい」という心のサインです。不安をなくそうとするよりも、見通しを描く・支えを増やす・変化に合わせて柔軟に動くなどを意識するようにしましょう。未来が予測できなくても、自分で考え、学び、選べる力があれば、暮らしの軸はぶれません。お金だけで安心はつくれませんが、心と知恵を整えれば、老後の時間も穏やかで安心なものにしていけるでしょう。