マネジメント

相次ぐ先生による“児童盗撮”事件…なかなか察知しにくい「個人の出来心的不祥事」に予防策はあるのか

先日、小学校の教員が児童を盗撮していたことが明らかになり、教育現場における職務管理の在り方が強く問われています。その人の外見や振る舞いなどからは気付きにくい個人の「出来心的犯罪」に、組織としての予防策はあるのか考えます。※画像:PIXTA

大関 暁夫

大関 暁夫

組織マネジメント ガイド

東北大学卒。横浜銀行入行後、支店長として数多くの企業の組織活動のアドバイザリーを務めるとともに、本部勤務時代には経営企画部門、マーケティング部門を歴任し自社の組織運営にも腕をふるった。独立後は、企業コンサルタントの傍ら上場企業役員として企業運営に携わる。

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小学校の教員による児童盗撮が発覚…… ※画像:PIXTA

小学校の教員による児童盗撮が発覚…… ※画像:PIXTA

過日、小学校教員による児童盗撮が発覚し、さらに教員同士で作っていたSNSグループ内で盗撮画像が共有されていたというショッキングな事実が判明して、教育現場における職務管理の在り方が強く問われています。

近年、児童盗撮事件は増加の一途という体感ではありますが、教育現場に限らずこのような当事者の外見や日常行動だけからでは測り得ない個人の出来心的犯罪を、組織として未然に防ぐことができるのか否か。この一件からは、単に個人の犯罪としてだけでなく組織のリスク管理上の問題として、大きな課題を投げ掛けられている感を強くしています。

組織がリスク負う犯罪は2種類ある

組織がリスクを負う犯罪には、「組織ぐるみの犯罪」と「組織に属する個人の犯罪」の2種類があります。組織ぐるみの犯罪は組織内の風通しの悪さなどから言いたいことが言えずに、知らず知らずに犯罪に手を染めてしまうというケースが多く見受けられます。未然に防ぐこと自体は決して簡単なことではありませんが、まだ社内の雰囲気から犯罪行為が行われそうな危険信号はある程度察知できるのではないでしょうか。

一方で個人型の不祥事は、表面行動だけからでは知り得ない特異な嗜好、家庭内の問題、経済的状況などが動機となっていることが多く、その未然防止はほとんど不可能であると思うのです。

筆者の企業勤務時代にも、仕事上では何の問題もなかった職場の後輩が駅構内での盗撮で逮捕され解雇される事件がありました。後日、社会復帰した本人から事情を聞いたところ、奥さまが精神疾患で仕事ができず家庭の雰囲気が暗くなり、小さな子どもたちの世話や家事の切り回しなどにも追われて、ストレスフルの状態でおかしくなっていたと、話していました。もしかすると本人に特異な嗜好があったのかもしれませんが、職場で身近な存在であった筆者にも家庭の事情も特異な嗜好の有無も、察知する余地はなかったのです。

何ともしがたい個人の「知り得ぬ陰の部分」

事件の種類は異なりますが、企業人の個人的犯罪として昨年大きな話題となった銀行貸金庫での多額の金品盗難事件もまた、同じように「知り得ぬ陰の部分」に起因する犯行であったことが分かっています。

犯行の当事者は、上司から信頼された役職者であり、貸金庫業務に関わる仕事上の権限を与えられていました。しかし同時に、周囲が知らない部分として投資などで多額の借金を抱えていたとのことで、そのことが権限上与えられた裁量と相まって出来心を生んだのです。もちろん、銀行の管理体制がしっかりしていればという恨みはありますが、「知り得ぬ陰の部分」の存在は如何ともしがたいのです。

筆者が銀行で管理職にあった時代には、お客さまのお金を預かっている企業としての社内管理の一環で、「職員の行動管理にも注意を払え」との指示が人事部からうるさく言われていました。それを受けて、仕事以外の事情で悩み事や疲労がたまっている者がいないか、外部から気がかりな電話が入っている者がいないか、私生活が乱れている者がないかとかが、職場内の人事会議にて管理者間で共有されていました。

その上で、「危うい」と思しき職員とは個別面談で相談に乗ったり注意を促したりするなどして、個人犯罪の未然防止を図っていたのです。プライバシー保護を重視する昨今ではそのような管理は当然NGなので、個人犯罪の未然防止はますます難しくなっていると言えるでしょう。

どのように未然防止を図っていけばいいのか

仮に今の時代、プライバシー保護の問題がなかったとしても、ビジネスとプライベートは完全分離を当然のこととする若い世代を相手に、個々人のプライベートな部分にまで踏み込んだ人事管理を行うことは不可能に近いと思えます。ならば、今の時代、冒頭に取り上げたような個人の嗜好や特殊事情による出来心的犯罪発生に対して、どのようにして未然防止を図ればいいのでしょうか。

組織としてできる未然防止策としては、まずは「日常的に抑止力を効かせ続ける」ということが有効と思います。すなわち、窃盗やセクハラ行為はもとより盗撮の類も立派な犯罪であるということ、犯した犯罪は必ずや表沙汰になるであろうこと、そして表沙汰になったときには職を失い犯罪者として扱われ社会復帰が難しくなって一生を棒に振ることにもなり得ることなど、事あるごとに上席者からの指導を徹底するということです。

そして、「上席者からの日常的なコミュニケーションを密にする」ということも大切です。上席者が個々の職員との距離がある、関心が薄いと感じるならば、職員は自身が何をしようともスルーされ問題視されないのではないかと錯覚に陥ることがあるからです。

プライベートに踏み込むような会話をしなくとも、日常的なコミュニケーションを密にすることで、自分は見られている、という意識付けを持たせることにつながります。それが、出来心が頭をもたげそうな折に意識として働くことで、未然防止に役立つと考えられるからです。

組織活動において、コミュニケーションの活性化は万能薬であるといわれます。コミュニケーションの欠如が風通しの悪さを生んで組織型の不祥事につながるだけでなく、職員を孤立させて個人型不祥事を生みかねないということは、常に意識しておきたいことです。
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