今回は、統計データをもとに高齢者の平均的な資産状況を紹介し、なぜ多くの人が「お金を使えない心理」に陥るのかを考えてみましょう。
高齢者の資産保有額はどのくらい?
金融経済教育推進機構が実施した「家計の金融行動に関する世論調査2024年」によると、高齢者の金融資産残高は以下のような結果になりました。この金融資産保有額には、預貯金以外に株式や投資信託、生命保険なども含まれています。また、日常的な出し入れ・引落しに使用される普通預金の残高は含まれていません。
【二人以上世帯の金融資産残高の平均貯蓄額】
・60歳代:2033万円
・70歳代:1923万円
【単身世帯の金融資産残高の平均貯蓄額】
・60歳代:1679万円
・70歳代:1634万円
ここで注目したいのは、二人以上世帯、単身世帯のいずれも60歳代と70歳代の平均貯蓄額がほとんど変わらないという点です。
通常、老後は貯蓄を取り崩しながら生活するものですが、データを見る限り、70歳代になっても大きく減っていません。つまり、多くの高齢者は貯蓄をあまり使わずにそのまま持ち続けていることが分かります。
●平均貯蓄額と中央値の違いとは?
「平均貯蓄額」とは、全世帯の貯蓄額を合計し、世帯数で割ったものです。このため、一部の超高額な貯蓄を持つ世帯の影響を受けやすく、実際の感覚とはズレることがあります。
一方、「中央値」は、貯蓄額の低い順に全ての世帯を並べた時に、ちょうど真ん中にくる値を指します。極端な高額貯蓄者の影響を受けにくいため、実際に近い金額を示していると考えられます。次は、中央値をみてみましょう。
【二人以上世帯の金融資産残高の中央値】
・60歳代:650万円
・70歳代:800万円
【単身世帯の金融資産残高の中央値】
・60歳代:350万円
・70歳代:475万円
二人以上世帯、単身世帯のいずれの中央値を見ても70歳代の貯蓄額は60歳代よりも約2~3割ほど多いことが分かります。つまり、70歳代の多くの人が、お金を使わずに貯蓄を維持し続けていることがうかがえます。なぜ高齢者はお金を使えないのでしょうか。
なぜ高齢者はお金を使えないのか?
高齢者が蓄えた資産をなかなか取り崩せずにいる背景には、主に2つの理由が考えられます。●高齢者がお金を使えない理由1:「長生きリスク」への不安
長寿化が進む中で、「老後の資金が足りなくなるのでは」という不安を抱えている人は少なくありません。生命保険文化センターが行った調査においても、自分の老後生活に「不安感あり」とした人の割合は82.2%。約8割超の人が老後生活に対して不安を抱えています。
実際、平均寿命も伸びており、男性の約4人に1人、女性の約2人に1人が90歳以上まで生きると言われています。長寿による生活費の増加を考えると「今使うより、万が一に備えて残しておきたい」という心理が働きやすくなるのもうなずけます。そのため、生活費の多くを公的年金の範囲内でまかない、蓄えた資産にはできるだけ手をつけないという傾向が強くなるといえるでしょう。
●高齢者がお金を使えない理由2:医療・介護費用の心配
高齢になると、病気やケガだけでなく、介護が必要になる可能性も高まります。特に、介護が必要になった場合、どのくらいの期間・費用がかかるのか分からないため、不安を感じる人が多いようです。
生命保険文化センターの調査によると、実際に介護にかかった費用や期間の平均は以下の通りです。
【介護にかかるお金】
・介護が始まる時にかかった初期費用(ベッドや車いすの購入など):平均74万円
・毎月の介護費用(施設利用料や介護サービス利用代など):平均8万3000円
・介護が必要になった期間:平均5年1カ月(61.1カ月)
また、介護が4年以上続いた人は約5割にのぼり、長期間にわたって費用がかかることが分かります。
こうしたデータを見ると、「もしもの時に備えて、お金を使わずに取っておきたい」と考えるのは自然なことです。特に、一度介護が必要になると、数百万円以上の費用がかかる可能性もあるため、不安を感じるのは当然でしょう。
長生きできることは喜ばしいことですが、その反面、「老後資金が足りなくなるかもしれない」という不安から、高齢者はお金を使うことをためらいがちです。
しかし、必要以上に貯蓄を抱え込むことで、今の生活を楽しめなくなってしまう可能性もあります。老後資金は、ただ「貯める」だけでなく、「いつ・どのように使うか」を考えることも大切。将来のために貯蓄をしつつ、今の生活も楽しめるように、お金の使い方を工夫していきましょう。