家計簿をつけることが年金生活の備えになる
――老後になると、もらえる年金の範囲で生活することになりますが、「決まったお金」でやりくりするためには、どのような準備をしておくとよいでしょうか。山﨑さん:まず家計の収支を把握することが大事です。多くの人は「支出」ばかりを気にしがちですが、いくら「収入」があるのかを明確にすることも重要です。収入がはっきりしていなければ、いくら使えるのかを把握することができませんので。

家事アドバイザーとしてメディアでも活躍する山﨑美津江さん
――家計の収支を把握するためには、やはり家計簿をつけるべきでしょうか?
山﨑さん:そうですね、家計簿をつけていないと、必要なお金の準備ができないと思います。
仮に、これまで50万~60万円の収入があった人でも、年金生活になると多くても25万~26万円ほどに収入が減ってしまいます。そうなった場合、頭の中だけで何をどう減らすのか考えるのは、難しいと思います。また、その日の気分によって判断が変わってしまい、なかなか適切な見直しができないものです。
でも、家計簿に収支の記録が残っていれば、「これは削ってもいいかな」「これは残しておこう」と、冷静に見直しすることができるのです。つまり、家計簿をつけること自体が、年金生活への備えにもなるわけですね。
いきなり1カ月家計簿をつける必要はありません。支出についてはまず、1週間でいいので何にいくら使ったかを記録してみてください。その合計額を4倍すれば、大まかな1カ月分の支出がわかりますので。
家計簿をつけているからこそわかること
――結婚して以来、50年近く家計簿をつけ続けているとのことですが、山﨑家の生活費は、どのように変化していますか?山﨑さん:純生活費(※)をグラフで見てみると、20代で20万円前後だった支出が50代でピークを迎え、その後徐々に減っていくのがわかると思います。
※総収入から税金と社会保険料を差し引いた「可処分所得」から、さらに貯蓄や保険を差し引いたもの

山﨑家の47年間の純生活費(引用:『婦人之友社』2024年6月号P84~P85)
子どもがいる家庭であれば教育費もかかりますので、50代の後半を過ぎないと、支出を減らすことはなかなかできないと思います。
子どもたちが独立し、夫婦二人暮らしになったら、20代で二人暮らしをしていた頃と同じくらいの支出(20万円前後)が理想的です。大体、年金も20万円くらいしかないため、その範囲でやりくりしていくことになりますから。
ですので、自分たちに合った生活サイズを意識することが欠かせませんね。生活サイズを夫婦で共有しないと、互いの金銭感覚にズレが生じ、勝手な浪費につながる場合があります。幸い夫は、車を欲しがらず、お酒も飲まず、タバコも吸わないため、大きな支出がかからずに済んでいるのですが(笑)。
家計簿は家族が歩んできた「暮らしの記録」
――長年にわたって家計簿をつけ続けることには、どのような良さがありますか?山﨑さん: 家計簿に記録を残しておくと、過去の暮らしを振り返ることができます。例えば、純生活費が90万円台の頃の記録を見て、「こんな時期もあったけれど、それでも自分たちのお金でやりくりできたんだな」と思い返せると、達成感が湧き、自信にもつながります。
また、時とともに生活スタイルが変化しても、家計簿があれば「かつてどんな暮らしをしていたか」を確かめることができます。まるで、暮らしの記録を残す“写真(アルバム)”のような存在ですね。
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教えてくれたのは……山﨑 美津江さん
家事アドバイザー。1948年東京生まれ。長女出産後、「友の会」に入会し、整理収納や掃除の技術を磨く。NHK「あさイチ」などで「スーパー主婦」として活躍。自宅を公開しての家事アドバイスも行う。家計簿歴は約45年。著書に『再出発整理――心地よい居場所とお金のつくり方――』(婦人之友社)など。