子どもの利益に直結する女性への融資
イスラームの古い慣習が残るバングラデシュでは、市場で物を売る人も買う人も男性ばかり。女性が店頭に立つ姿を見ることはなかなかできません。 |
そういった社会で女性に融資するなんて通常はあり得ません。当初、男性たちからは、強い反発もあったといいます。でもあえて女性へ融資したのは、女性の自立を促すことはもちろん、それが、子どもの利益に直結するためでした。
女性は子どもの栄養状態を向上させ、教育のためにお金を使います。さらに、長期の将来の見通しを持ち、貧困から抜け出したい、今よりよくなろうという気持ちが男性より強い傾向があるといわれます。ユヌス氏は、女性の持つ力を信じ、支援することで、貧困の悪循環からの脱却を目指したのです。
今では融資を受けている人の95%が女性、そしてその返済率も99%に達しています。(2005年の実績)
融資を受け、借りたお金を返済することには、単にお金をやりとりした以上の意味があります。自信と自尊心が芽生え、やればできるという意欲と、貧しい生活から抜け出せるかもしれないという希望が生まれてくるのです。それがグラミン銀行の目指すところでもあります。
システムは万能ではない
農村の子どもたち。融資を受け、仕事が軌道に乗ることで、子どもの栄養状態や着るものに変化が見られます。充分な教育を受けさせ、大学へ行かせたいという希望を持つ親も少なくありません。 |
一方では、その方法に批判的な人もいるといいます。「本来なら自ら立ち上がるべき貧困層をお金で支援してその力を奪ってしまった」という非難、「高い返済率は、でっち上げだ」という中傷、そして「物乞いをする人など、本当に救うべき人たちを救っていない」といった批判などです。
そういった批判にユヌス氏は、あるドキュメンタリーでこう答えていました。
「私はマイクロクレジットを万能薬として売り込んではいません。重要な役割を果たしていますが、すべての問題を解決できるわけではないのです。ただ言えることは、何でもあきらめずに頑張ってみるべきことではないでしょうか。貧困だから、女性だからとあきらめずにやりたいことをやってみること。そのためにこの制度を利用してもらえるといいと思います」(「レッドフォードが語る世界のニューヒーロー」NHK BS1 2006年1月4日(水)放送分より)
システムは万能ではなく、それを生かすも殺すも使う人次第。貧困を救うという情緒的になりがちな活動を、現実的な方法で解決してきた経済学者らしい言葉です。貧しい人が貧困を解消し、自立的に生きる意欲を生むシステムを編み出し、しかもビジネスとして銀行を成功させたムハマド・ユヌス氏。その功績は、ノーベル平和賞のみならず、経済学賞にも匹敵するのではといわれています。
最後にユヌス氏をもっと知るためのおすすめの本のご紹介です。