文部科学省が公表した「令和6年度 学校基本調査」によると2024年度の大学進学率は59.1%に達し、大学全体の在学者数は約295万人で前年度よりも4200人増加し進学率と共に過去最高を更新。少子化の中、世の中の大学生の数は年々増えており、5人に3人は大学に進学する時代になっている。
その要因の1つとしては大学の数が増えたことが考えられ、特に私立大学では入学者数の獲得に苦戦している大学も少なくないほどだ。中には就職に直結しやすい学部を新設する大学もあり、「大学の専門学校化」が進んでいると指摘する声もある。
高校生にとっては、大学以外にも職業に直結した知識や技術を学ぶ「専門学校」も進路の選択肢としてあるが、大学を選ぶべきか、専門学校を選ぶべきか、悩んでいる生徒も中にはいるだろう。
最近入学者数が定員割れする低偏差値・低知名度の大学は「Fラン大学」と呼ばれているが、実は専門学校も受験すればほぼ合格するという学校は多い。どちらも入学の敷居が低い点においては共通しているが、果たして将来に役立つのはどちらの環境なのだろうか。
専門学校生の学びへの意欲が入学時から高い理由
筆者は過去にFラン大学と呼ばれる低偏差値の大学、そして専門学校の両方で1年生のキャリアの授業を担当した経験がある。その際に感じたのは入学時の「学びへの意欲」については専門学校の1年生は非常に高いということだった。入学における大学と専門学校の大きな違いの1つは「学びたい分野を入学前に自分なりに定めて入学するかどうか」である。専門学校は必ず自分が将来的に就きたい特定の職業分野を決めて、その分野を学べる学校を探して願書を提出する。そのため、入学後の授業は自分の学びたいことや将来目指したい職業に直結しているから意欲が高い。
また専門学校の教員は、実際にその職業や現場を長年経験した「実務経験者」であることがほとんどである。筆者が授業を担当した専門学校の1つは音楽系だったが、先生らは民間のイベント会社でコンサートの音響や設備を担当した人や、実際にプロのアーティストとして演奏していた人たちだった。
そのため学生と教員の関係性もその分野における「先輩と後輩」のような関係性が成り立っており、より親身に学生の学びや成長をサポートしているのが印象的だった。学校内でのあいさつも学生と教員が互いに「お疲れ様です!」と言っていたのが印象的で、まさに学校でありながら職業現場のような実践の場があるのが専門学校の特徴だと感じる。
そういう意味でも、もし高校卒業時に特定の職業に興味があったり、学びたい分野がある場合は専門学校に行って、その分野の専門知識や技能を学ぶというのはとても良い選択だと思う。
4年間という価値ある空白期間を最大限に活用できる大学生活
専門学校と比較するとFラン大学と呼ばれる大学の1年生にとって学びへのハードルは高い。まず学生の学びへの意欲は専門学校と比較すると低いことが多い。それは学部や学科を必ずしも「学びたい分野」として選んでいるわけではないからだ。先生たちも、授業への熱心さや学生への面倒見の良さは教授のタイプによって分かれる。大学の教員は「研究者」として採用されており、授業や学生教育よりも“研究活動”を重視していることが多いため、授業の内容が専門的過ぎて生徒が理解できないことはしばしばある。すると生徒は授業を休みがちになり、そのまま退学してしまう学生もいる。
ただそんなFラン大学であっても、むだかと言われるとそんなことはない。筆者が企業の新入社員向けに行う研修の中で頼もしさを感じる受講者の中には、必ずしも有名大学卒ではない人も多い。Fラン大学出身者の大学生活について聞くと、3つのバイトを掛け持ちしていたり、世界をバックパッカーで旅をしていたりと、多様で密度の濃い経験をしている点が特徴的だ。これは2年間専門分野の授業で忙しい専門学校生には得られない経験かもしれない。
大学の授業も興味のない分野のレポートや卒論を嫌々ながらこなした経験というのは、実は社会に出てからの仕事で役立つことも多い。入社後の実務では必ずしもやりたい仕事がすぐにできるわけではなく、最初は地味な雑用の繰り返しのような作業であることも多い。Fラン大学に入り元々勉強は苦手で、専門分野にも興味はなかったとしても、単位を取得するという目標のためだけに嫌なことにもめげずに頑張った経験値は意外と大きい。
Fラン大学とはいえ「大学生」という立場を得て、4年間という人生ではなかなか得ることのできない貴重な空白期間を自由に過ごせることは、大学進学の最大の価値と言っても良いかもしれない。
人生の中で、18歳からの数年を何を大事にしていかに過ごすか
専門学校であれ、Fラン大学を含む大学であれ、大切なのは高校を卒業して18歳からの数年間を何を大事にして、どのように過ごしたいのか、という目的意識を持つことである。もしある程度興味関心のある分野や職業があり、その道の知識や技術を習得して「専門力」を高めることに重きを置きたいのであれば専門学校は良い道であろう。逆にそのような「やりたいこと」や「学びたい分野」がなかったとしても、大学に進学していろいろな出会いや経験を得ることで、自分の将来の方向性が見えてくることも十分ある。
大切なのは「どこに行くか」以上に、そこに行って「何を得るか」。もし進路に悩んでいる高校生がいるとすれば、「専門学校か? 大学か?」という軸だけではなく、もう少し広い視点で「18歳から数年間どのような時間の過ごし方をしたいか」という視点で考えてみても良いだろう。
<参考>
文部科学省「令和6年度 学校基本調査」