マネジメント

怪しげな“うわさ”でネットはざわざわ…突然破産した船井電機に学ぶ「企業の危ない兆候」

船井電機は10月24日、破産手続きに入りました。ネット上ではこれまでの経緯に“怪しげな動き”があったとして話題に。一般的に企業経営が倒産、破産、廃業に至るようなリスクをはらむ兆候はどのようなところに現れるものなのか考えてみたいと思います。

大関 暁夫

執筆者:大関 暁夫

組織マネジメントガイド

かつては「世界のFUNAI」として親しまれた船井電機 

かつては「世界のFUNAI」として親しまれた船井電機 ※画像出典:Piotr Swat/Shutterstock.com

老舗AV機器メーカーの船井電機が2024年10月24日に破産手続きに入ったというニュースに関連して、ネット上ではその経緯に怪しげな動きがあったとさまざまな書き込みが飛び交って話題になっています。
 

「ミュゼ転がし」なる造語まで生まれて

朝日新聞や複数のWebメディアの報道によれば、同社はここ数年本業の業績が思わしくなく、23年4月に新たな事業分野に活路を見いだすべく脱毛サロンチェーンのミュゼプラチナムを完全子会社化しているのですが、その前後から急激に経営の雲行きが怪しくなっていったというのです。

ミュゼプラチナムは子会社化から1年後の24年3月に売却されていますが、この間に多額の資金が流出したといいます。

23年3月末に221億9600万円(同社事業報告書)あった現預金は、「10月25日の従業員給与1億8000万円を出金すると運転資金が1000万円を下回る状態」(東京商工リサーチ)に至り、破産に追い込まれたのでした。

「買収したミュゼプラチナムへの資金支援などによる多額の資金流失も大きかった」(同)と報じられたこともあって、ネット上では「ミュゼ転がし」なる造語まで生まれ、M&Aを機に何者かに大量の資金を抜かれたのではないかとの臆測も飛び交っているのです。

うわさの真偽はさておくとして、従業員が次々辞めていくといった目に見える兆候はないまま、船井電機は突然終焉(しゅうえん)を迎えています。

一般的に企業経営が倒産、破産、廃業に至るようなリスクをはらむ兆候はどのようなところに現れるものなのか、筆者の銀行マン的なものの見方も含め船井電機の事例を引き合いにしながら考えてみたいと思います。
 

会社のトップが交代するリスク

経営がおかしくなる引き金は、本業の低迷であることがほとんどです。船井電機の場合もそうでした。

本業のテレビ事業が低迷を続ける中、それに代わる新たな事業の柱を見つけることがままならず、12年から上場を廃止した21年まで些少の黒字に転じた1期を除いて、すべて営業赤字を計上する長期低迷状態にありました(22年以降は、利益情報は非開示)。

1期や2期の赤字はさほどの心配はいりませんが、長期にわたり赤字決算が続くとなるとさまざまなリスクが噴出してきます。

一つは「トップの交代リスク」です。前任者が業績低迷の責任を取って退任したとしても、後継者がしっかりと後を継いでいるならば大きな不安はありません。しかし、後任が短期間で複数回交代する、あるいは外部異業種から代わる代わる経営者が入り込んでくるとなると、経営が不安定になりさまざまな問題が起きる兆候となり得ます。

船井電機の場合も、14年~17年の短期間に返り咲きを含む3人が交代で社長を務めています。また21年の上場廃止後は、外部からの異業種出身者が立て続けに2人が社長を務めたところで経営は終焉(しゅうえん)を迎えました。同社のように、そもそも同族経営でありながら同族筋に後継がいない場合は、事業継続に関するリスクが増大すると考えていいでしょう。
 

経営者が一番恐れるもの

また、「本業の低迷を受けての新規事業への進出」も、慎重な判断が必要になります。新規事業が本業との関わりがあるのか否か、という点がまずは要注意ポイントです。経営者は焦りが出ると、とにかく手早く稼げそうな事業に安易に手を出して痛い目に遭うこともままあります。

自社開発をベースにした新規事業ならばまだ安心感がありますが、M&Aで企業ごと事業を買収するとなるとより注意が必要です。新たな収益源欲しさに外部に勧められるままM&Aで新規事業を買うことは、一層の慎重さが求められるところです。

船井電機で問題視されている脱毛サロンチェーン、ミュゼプラチナムの買収は、本業との関連が薄く、かつM&Aで企業ごと事業を買収している点から、まさにこれに当たるでしょう。しかもミュゼプラチナムは、買収以前に一度経営破綻している会社であることが分かっています。

また買収後に、ミュゼプラチナムに巨額の未払い広告費が発覚し、親会社として支払保証をしていた船井電機が多額の債務肩代わりをせざるを得ず、資金流失を加速させたといわれています。

これらの事実からは、十分な事前調査のないままM&Aを急いだ末の失敗であった可能性が高いと思われるところです。

業績が低迷を続けた場合に、経営者が一番恐れるのが「資金ショート」です。事業が回っていようとも、手元の支払資金が底を突いてしまえばそれで企業経営はゲームオーバーですから。

銀行の資金協力には限界があり、業績的に先行きの見えない状況下での追加融資は非常に困難になります。そうなると、手持ち資金が手っ取り早く手に入るかのような話を持ち掛けられて、焦りに急き立てられて危ない橋を渡るケースもまま見受けられます。先を急ぐあまり検討に慎重さを欠けば、命取りにもなりかねないのです。
 

火のないところに煙は立たない

社長周辺の人の出入りの変化」も、会社経営が危ない状況にあるか否かの判断材料になるといえます。怪しげなM&A話を持ちかける者、「M資金」に代表される架空の巨額無利子資金の取り込みを持ち掛け、前払い手数料をだまし取るというような詐欺師までが、経営者に近づいてくることも珍しくありません。

「貧すれば鈍する」とはまさに経営者のためにあるような言葉です。業績の低迷こそが、これらすべてのリスクを現実のものにしてしまう引き金になり得るのです。「業績の長期低迷」は、何よりの警戒事項といえます。

人のうわさ」も経営の異変を察知する重要情報です。経営におかしな動きが出てくると必ず人のうわさが出るものです。社内から、あるいは付き合いのある社外から、「社長の行動がおかしい」「最近、あの会社変だ」「支払いが危ないという話を聞いた」などなど。

火のないところに煙は立ちません。それがある程度の規模の企業になれば、うわさはメディアで報じられるようになります。船井電機の件も、昨年話題になったビッグモーターの件も、事件発覚前に異変を伝えていたのはネットメディアだったのです。

今回の船井電機の件では、10月の給料日の前日に突如「給料は支払えません」と解雇を告げられたといいます。寝耳に水の突然解雇となってしまっては、翌日からの生活もままなりません。会社員は会社でさまざまな異変兆候を捉えたら、早くに身の振り方を考えることも自己の生活を守る重要な手だてであるでしょう。

<参考>
東京商工リサーチ「船井電機の実質負債800億円、多額の引当不足が露呈
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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