自分の生物学的な性に対して、強い不快感を抱えてしまう……「性別不快症」とは?
精神医学において、トランスジェンダーの方がしばしば抱える心の問題は無視できないものです。ここでは、心と体の性の不一致によって起こる「自分の生物学的な性に対して、不快感を抱えやすくなる」心の問題について、考えてみたいと思います。
性別不快症(gender dysphoria)とは
自分の生物学的な性を不快に思い、その程度が日常生活に深刻な問題や支障が生じるほど悪化した場合、精神科において「性別不快症(gender dysphoria)」と診断されることがあります。「性別不快症」は世間的にはまだあまり知られておらず、診断される頻度も高くない病気です。アメリカの統計でも、「およそ10,000人に1人」という報告もあり、まれな疾患と言えるかもしれません。しかし深刻な性別不快症を発症してしまった場合、精神医学的に適切な対処や治療が必要になります。
診断を受ける人は少数であれ、社会での生きづらさから心の病を抱えてしまうことは、本来あってはならないことです。
性別不快症患者の多くは「肉体的に男性」……原因には「社会の目」も
ここで注目したいポイントは、性別不快症やそれに近い状態になる割合は、「出生時の生物学的な性が男性の方が、女性の3~4倍多い」という点です。この大きな差が生まれる背景についても、考えてみる必要があります。性別不快症の発症に明らかな性差がある点には、「社会の目や考え方」が関係していると考えられています。率直に言えば、「男性らしい女性」よりも「女性らしい男性」に対して、社会の目はなぜか厳しい傾向がある、ということです。
より具体的な例を挙げると、「戦隊もののマンガや車など、一般的には男の子が好みそうなものが好きな女の子」や「おてんばで、男の子と活発に遊ぶ女の子」よりも、「ままごとや人形遊びなど、どちらかというと女の子が好むものが好きな男の子」や「メイクや女の子らしい服装に興味を持つ男の子」の方が、周囲から問題視され、実際に心ない言葉や強い言葉を受ける傾向がある、ということです。
幼い時期に、配慮のない言葉をかけられたり、からかうような態度を取られたりすることは、非常に大きなストレスになります。いわゆる「女の子のような男の子」に対する社会の目や態度が、当事者の心に影を落とし、将来的な心の病気につながってしまう可能性があることは、もっと知られておくべきことではないでしょうか。
■参考文献
- Kaplan&Sacock's Synopsis of Psychiatry