マネジメント

【子持ち様論争】「なぜ私が子持ち様の仕事をさせられないといけないの?」不満の原因と解決策を考える

社会の制度もあって優遇されている子育て中の親を「子持ち様」と呼んで皮肉る風潮があるようです。フォローに回った側の人に仕事のしわ寄せがいき、不平不満が発生するのは企業として実に悩ましいところでしょう。根本原因と解決策を考えます。

大関 暁夫

執筆者:大関 暁夫

組織マネジメントガイド

休む人のフォローをした側のスタッフにしわ寄せが……

「なぜ自分だけが『子持ち様』都合のあおりを受けて余計な仕事をさせられないといけないのか」と腹が立つ人も……

社会的な優遇対象となっている「子を持つ親」を、「子持ち様」と呼んでSNS上などで揶揄(やゆ)する風潮があるようです。その目立つもののひとつは、政府の子育て支援政策による金銭面などでの優遇をうらやむ人からの声です。

また、小さな子を持つ親が子どもの病気などを理由に急に会社を休み、それによって仕事のしわ寄せを受けた周囲の人からのものも目につきます。

前者はある種のひがみ根性として片づけられるものかもしれませんが、後者は企業としても実に悩ましいところではないでしょうか。円滑な職場づくりの観点から、いかなる対処が肝要であるのかを考えてみます。
 

昭和の時代とは異なる組織体制

はじめに認識すべきは、共働きが当たり前の今の時代、「子どもの病気で仕事を休んで職場に迷惑をかけるぐらいなら、子育てが落ち着くまで働くな」というのはいかにも暴論だということ。企業としても子育て支援の精神をベースに対応を考えなくてはいけないのが大前提です。

しかし、人員的な余裕を持っておおらかな組織運営をしていた昭和の時代とは異なり、今はどの企業もギリギリの人員構成が当たり前であり、理由はともあれスタッフの1人が突然休めばそれだけで業務に支障が出るのは当然の流れでもあるのです。
 
まず必要なことは、職場における突発欠員発生時の業務体制の再確認です。自部門のスタッフが1人欠けた場合の日常業務の遂行シミュレーションを、管理者が事前にしておくことは必須です。

病欠や家庭事情による急な休みだけでなく、一般的な有給休暇消化や連続休暇取得などの対応策として事前の体制検討は必須であり、大半の会社においては誰が休んでも業務が回るような臨時体制づくりができているのが一般的でしょう。
 
特に問題となるのは、誰かが休暇を事前に申請して1人欠けている状況下で、さらに子育て中のスタッフが子どもの急病などにより同一係内で2人以上欠けてしまうような状況の発生です。
 

「なぜ私が余計な仕事をさせられないといけないの?」

SNS上でこのような状況下における「子持ち様」批判としては多いのは、「同じ労働条件で働いているのに、なぜ自分だけが『子持ち様』都合のあおりを受けて余計な仕事をさせられないといけないのかと腹が立つ」といったものです。解決のヒントは、この発言内にこそあります。
 
要するに、あるべき常識的な組織運営としては「平等」を旨として行う必要があるわけですが、それが損なわれてしまうと、平等感が劣後したと感じるスタッフから不平不満が発生するのです。

この場合に最優先すべき対応策は、休んだスタッフよりも上の立場の者がその業務を引き継ぐことです。すなわち、まず管理者が就業の埋め合わせをすることが、他のスタッフの平等感を損なわない何よりの対応であるといえるでしょう。

平時の管理者の仕事は部下の仕事を管理することですが、管理業務の中には、病欠などで穴が空いた有事には自ら動くことで業務を遅滞なく回す、ということも含まれるからです。
 
もちろん管理者自身も大量の業務を抱えていてギリギリの状況にあり、とても穴埋めには入れない、という場合もあり得るでしょう。

そのような状況を視野に入れるなら、休んだスタッフの代わりにその業務を引き継いだ者に「業務代行手当」を支払うか、あるいは賞与などの評価に「加点評価」するなどを制度化して、代わりに業務をした人も損をしていないということを見える化させることが有効となるでしょう。子育て中のスタッフが多い企業などでは、企業規模を問わずこれらの制度化は必要な検討事項であると思います。
 

誰もが働きやすい環境づくりに欠かせないもの

なお、これらの対応を検討する際に注意しなくてはいけないことは、子どもの発熱などを理由に仕事を休んだ側のスタッフに対して減俸やマイナス評価などの罰則を与えるのは、子育て社員が休暇を取る権利尊重の考え方に反するということです。

あくまで会社としては、休んだ側のスタッフを責めるのではなく、突然の休暇で空いた業務の穴を埋め合わせてくれた側のスタッフをほめるという姿勢を、貫くことが大切なのです。
 
ちなみに損害保険大手の三井住友海上火災保険では、「会社全体で育児を支援する風土の醸成」を目的として、昨年3月から「育休職場応援手当(祝い金)」という制度をスタートさせています。

これは社員が育児休業を取る際に、職場の人数規模等に応じて育児休業取得者本人を除く同じ職場で働くスタッフ全員に、3000円~10万円の一時金を給付するというものです。育児休業取得時に限定した制度ではありますが、子育てスタッフの働き方をめぐる平等感の維持という考え方からは、見本とすべき施策といえそうです。
 
もちろん、冒頭で触れたような「子持ち様」を揶揄(やゆ)する雰囲気を職場内で生まないためには、まずは子育て中のスタッフに、子育てをしているのだから突然休んでも当たり前とか、子育て中の自分は守られるべきという意識を持たせないことも必要です。

言わずもがなのことですが、スタッフが子どもの都合で突発的に休みを取る際には、職場に迷惑をかけているという意識を持って、周囲への礼を失しないよう日常的な意識づけも忘れずに。

そして何より、日常から職場内のコミュニケーションを密にして、子育て中のスタッフも含めて皆の状況を共有することで、子育てに対する周囲の理解を得られるような雰囲気づくりをしたいということです。

会社として、職場として、子育てを支援し誰もが働きやすい雰囲気づくりは、密なコミュニケーションがあってこそ醸成されるということを、付け加えておきます。

>次ページ:休んだ人のフォローをする側への支援例
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