デビューから10年以上かかって手に入れた映画の世界
――キャリアについてお話を伺いたいのですが、磯村さんの最近のお仕事は映画を主軸に置いて活動している印象があります。その理由やキャリアの築き方について教えてください。磯村:映画が好きで、映画に関わりたくてこの業界を目指してきたので、ようやく今、自分好みのテーマの作品に出演したり、一緒に仕事をしたかった監督さんの映画に呼んでいただけたりするようになり、本当にありがたいことだと思っています。
映画の良さは表現の自由さです。もちろん完全な自由ではなくある程度の縛りはあるものの、自由だからこその面白さがあるんです。制限のある中の表現に挑戦し続けるテレビドラマの世界も素晴らしいのですが、僕は映画の自由さに憧れてきたので。仕事をしていて面白いし、心が豊かになると感じます。
――デビューしてから現在のキャリアに至るまで何年くらいかかったのですか?
磯村:10年以上かかっていますね。僕としては、社会的なメッセージ性のあるものに出演していきたいと考えているので、社会的な視点を持ち続けて映画に関わっていきたいです。
――社会的な作品に出演したいというのは、何かきっかけがあったのですか?
磯村:もともとそういうタイプの映画が好きということと、今、社会で起こっていることに目を背けてはいけないと思っているからです。エンターテインメントに徹した作品の面白さも理解しています。が、社会で起こっていることにメスを入れていくような作品も必要だと思います。正直、そういった作品を良しとしない人もいるかもしれません。それでも僕はちゃんと対峙して、社会的に意義のある作品に関わっていきたいです。
ターニングポイントは『ヤクザと家族 The Family』
――磯村さんはWOWOWの『アクターズ・ショート・フィルム』で監督に挑戦していますが、映画好きからこの業界に入ったということは、制作の方にも興味がありますよね。磯村:興味はあります。監督をまたやりたいという欲はありますが、自分が仕事を一緒にしてきた監督さんたちはプロフェッショナルな映画職人。本当に優れた監督さんばかりなので、はたして自分が監督をしたときに、自分の色を出せるのだろうかと考えてしまって……。今はそういった監督さんたちから刺激をいただいています。 ――『正欲』の岸善幸監督も素晴らしい作品を次々と発表されていて、その監督の演出による磯村さんの抑制された演技は印象的でした。すごくいいキャリアを積まれていると思いますが、これまでの出演作でターニングポイントとなった作品はありますか?
磯村:藤井道人監督の『ヤクザと家族 The Family』(2021)です。撮影現場でのスタンスがこれまでとは違う感覚でしたし、新しい自分に出会えた瞬間があり、成長させてもらえた作品でした。
とにかく愛に溢れた現場だったんです。キャスト、スタッフが一丸となって同じ目標に向かって突き進みながら、お互いを思いやって敬い合って。映画愛と人間愛に溢れた現場でした。 ――作品ごとにまったく違うお芝居を拝見していますが、演じることは楽しいですか? どういう感覚なのでしょうか?
磯村:楽しいというわけでもないんですよね。言葉にするのが難しいのですが、つまらないと思うこともあるんです。でもそれは演じたくないというわけではなく、自分の気持ちが役に直結していて、演じている役が「つまらない」という感情を持っていれば、僕もつまらない。『正欲』の佳道は本当の自分を隠して生きているので、楽しいとは思えなかったですし……。僕は役に左右されることが多い方かもしれません。
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