“普通であること”にこだわり、自分の理解の範囲を超えた人間を受け入れられない検事・寺井啓喜(稲垣吾郎)、ダンスサークルに所属し、準ミスターに選ばれるほどの容姿を持ちながら、人知れず悩みを抱えている大学生・諸橋大也(佐藤寛太)、大也の同級生で、学園祭実行委員をしている女子大生・神戸八重子(東野絢香)のエピソードが絡まり、異なる背景の人々の葛藤と幸福を描いた作品です。
本作のキーパーソンでもある佳道役の磯村さんに、この作品の裏側や俳優としてのキャリアについてお話を伺いました。
映画『正欲』に出演、磯村勇斗さんにインタビュー
――まず、佐々木佳道を演じるにあたって“役作り”について教えてください。磯村勇斗さん(以下、磯村):やはり佳道の指向については難しいところで、岸善幸監督とは話し合いました。僕は、彼の “人に言えない、隠している部分”については共感ができたので、その感覚を大事にしました。また彼の指向についても「どういう感覚なんだろう、どんなふうに見えているのだろう」と、僕なりに考えてみました。
――自分の指向を隠してきた佳道にとって、夏月との再会は大きな出来事だったと思いますか?
磯村:佳道にとっては救いだったと思います。それまで自分はマイノリティーだと自覚していたけど、仮面をかぶってマジョリティーの中で生きていかなければいけないと思っていたのではないかと。それはおそらくマジョリティーの圧を感じていたからです。世間の目を気にして、なじまなければと生きてきたと思います。
そんな中で同じ指向を持った夏月と再会して、彼は自分の世界へと引き戻された。夏月の存在が本来の自分に戻してくれたと解釈しました。 ――佳道と夏月は恋愛というより、ソウルメイトのような関係だと感じたのですが、磯村さんは2人の関係についてどう考えましたか?
磯村:夏月が一番の理解者であり、支えてくれる存在ですね。離れていた期間はありますが、再会の仕方も劇的だったし、必然だったのではないかと。運命で結ばれた2人だと思います。
ただ、佳道は夏月のことをあまり知らないんです。彼女の仕事や家族のことなど詳しく知らない。お互いの指向だけで理解し合えているという不思議な関係ですが、彼にとっては居心地が良かった。それだけで心がつながることができるんだ思いました。
>次ページ:磯村さんが語る「理想のパートナー像」