税金

副業などで得た所得は雑所得か事業所得か?所得区分の違いとは?

「年収、あるいは年商ベースで300万円以下であれば、原則、事業所得ではなく、雑所得として取扱う」という国税庁の「所得税基本通達の制定について」に対して2022年8月1日から同年8月31日までホームページ等を通じて意見公募が行われました。ところが多くの反対意見があり、2022年10月7日に修正がなされたのです。なぜ、年収300万円以下が事業所得ではなく雑所得に認定されると困る人がいるのでしょうか?理由と背景をみていきましょう。

田中 卓也

執筆者:田中 卓也

税金ガイド

  • Comment Page Icon
<目次>
 
副業で得た所得は雑所得?それとも事業所得?

副業で得た所得は雑所得?それとも事業所得?

 

「年収ベースで300万円以下は雑所得」。国税庁の「所得税基本通達の制定」に反対意見が多かった理由とは?

国税庁から発表された「所得税基本通達の制定」について、2022年8月1日から同年8月31日までホームページ等を通じて意見公募が行われました。ところが7059通もの反響があり、その後2022年10月7日に国税庁によって修正がなされたということがありました。

国税庁が出した「所得税基本通達の制定」の内容は平たくいうと「年収、あるいは年商ベースで300万円以下であれば、原則、事業所得ではなく、雑所得として取扱う」というものです。

具体的には以下のようなコメントだったのです。

「事業所得と業務に係る雑所得の判定は、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定するのであるが、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証のない限り、業務に係る雑所得と取り扱って差し支えない」
 
国税庁に寄せられた「7059通の反響」は、ほとんどが「所得税基本通達の制定」に対する反対意見です。その影響もあってか、2022年10月7日に以下のように改められました。

「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)

その内容は
「事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得(資産(山を除く。)の譲渡から生ずる所得については、譲渡所得又はその他雑所得)に該当することに留意する」

国税庁によって改められた所得区分を図解すると以下のようになります。
 
 
事業所得と雑所得の所得区分のイメージ図 (出典:国税庁 資料より)

事業所得と雑所得の所得区分のイメージ図 (出典:国税庁 資料より)



つまり「収入金額300万円以下」か、「収入金額300万円超」か、という基準によらず
  • 記帳・帳簿書類の保存あり……おおむね事業所得
  • 記帳・帳簿書類の保存なし……おおむね雑所得
という区分に落ち着いた、といっていいでしょう。
 

事業所得と雑所得でこれだけ違う「優遇措置」

国税庁には多くの反対意見が寄せられた、ということですが、そのほとんどは「得た所得を雑所得として決めつけられると困る」という人から、とみていいでしょう。

例えば、副業をしている会社員などが挙げられます。副業で得た所得を雑所得ではなく事業所得として確定申告することにより、節税メリットを得ることができます。雑所得と比べると、事業所得としての税制の優遇措置は多くあるからです。

よく知られている事業所得として申告することによる優遇措置は以下のとおり。また、「青色申告の承認」とセットになるとさらに優遇措置は拡大します。

逆からみれば「青色申告の承認」を受けられるのは「不動産所得、事業所得、山林所得」だけので
「雑所得として認定されてしまうと、税制の優遇措置の適用を受けられなくなる」ということです。

●事業所得として申告することによる優遇措置の例
■他の所得との損益通算
事業所得等で生じた赤字を給与所得や不動産所得など他の所得との黒字と相殺できる。
 
●青色申告者として承認され事業所得として申告する場合に受けられる特典
青色申告特別控除
必要経費とは別に要件によって65万円、55万円あるいは10万円が収入金額から差し引ける。

青色事業専従者給与の活用
届出書の提出が必要だが、親族等への給与を必要経費に算入できる。また白色申告者であっても事業専従者控除が適用できる。

少額減価償却資産の特例の活用
1個あたり30万円未満であれば、年間合計300万円まで、一時の費用として処理できる。

純損失の繰越控除および繰戻還付
事業所得等で生じた赤字を翌年以降3年間発生した黒字と相殺できる(繰越控除)。逆に、本年分の赤字を前年の黒字と相殺して税金の還付を受ける(繰戻還付)。
 
もちろん、このほかにもメリットはいろいろあり、すべて「所得を雑所得として認定されると適用を受けられなくなる」優遇措置であるため。雑所得として扱われることへの反対意見が多かったということです。
 

基本的には、生計の糧となるのが「事業所得」、小遣い稼ぎが「雑所得」

そもそも「事業所得」と「雑所得」の所得区分の違いについておさえておきましょう。

最高裁の過去の判例では「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」と判示していて、これに該当しないものが雑所得になるということです。

上記を踏まえて、「事業所得と雑所得の違いについてのイメージ」をお伝えするときに「生計の糧となり、反復継続的に行うのが事業所得、反対にスポット的に小遣い稼ぎ程度に行うのが雑所得」と伝えています。

「反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」の金額的ボーダーラインとして「収入金額300万円基準はどうか」というのが今回のパブリックコメントの背景といっていいでしょう。
 

暗号資産取引では、くすぶり続ける収入金額300万円基準

このとおり上記「収入金額300万円基準」を、所得税法本体に記載するのはいったん立ち消えになりました。しかしながら、この「収入金額300万円基準」は暗号資産内のFAQには以下のとおり記載が残されています。
 
暗号資産取引により生じた損益は、邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益と認められますので、原則として、雑所得(その他雑所得)に区分されます。

ただし、その年の暗号資産取引に係る収入金額が300万円を超える場合には、次の所得に区分されます。
暗号資産取引に係る帳簿書類の保存がある場合……原則として、事業所得
・ 暗号資産取引に係る帳簿書類の保存がない場合……原則として、雑所得

 
つまり、暗号資産の所得区分に関しては「収入金額が300万円を超え、かつ、帳簿書類の保存がある場合に事業所得」とされ、上記以外は原則、雑所得とされるところからも、税務当局内部では依然として、「収入金額300万円基準」がくすぶり続けているとみていいでしょう。
 
【編集部からのお知らせ】
・「家計」について、アンケート(2024/11/30まで)を実施中です!

※抽選で30名にAmazonギフト券1000円分プレゼント
※謝礼付きの限定アンケートやモニター企画に参加が可能になります
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます