ボクシングと役者に通じるもの
――『春画先生』は、春画に魅了された人たちのお話ですが、柄本さんは、映画以外で夢中になっていること、魅了されているものはありますか?柄本:ボクシングですね。運動不足なのか、階段の上り下りでゼエゼエ言うようになり、これは何かやらなければと思ったのがきっかけです。やはり体を動かすスポーツがいいなと思い、ボクシングのコーディネーターとして有名な松浦慎一郎さんに連絡させていただいて、始めたのがきっかけです。
――『百円の恋』(2014)、最近では『春に散る』(2023)など、映画の中のボクシングシーンには欠かせない方ですね。
柄本:はい。松浦さんに教えていただいているうちに、だんだん「ボクシング哲学」みたいなものが見えてきたんです。右足で踏み込んだ力をいかにスムーズに右手のパンチにするか。肩や腰が力んではダメで、膝の回し方など体の使い方ひとつでストーンと力が抜けていいパンチが繰り出せる……など、すごく細部に至るんです。そのギミックがすごく面白くて。
――なるほど。
柄本:そういうボクシンングのギミックは俳優の仕事にもつながっています。面白い脚本があり、その面白さを損なわずにどうやって具現化できるか。力まずにセリフに落とし込んで、物語の面白さを映画の中で浮き上がらせていくにはどうしたらいいのか……。面白さの質は違いますが、その感覚が似ていることもボクシングに引かれる理由のひとつかもしれません。
近い将来、長編映画を監督したい!
――将来についてもお聞きしたいのですが、柄本さんは映画監督として、WOWOWの「アクターズ・ショート・フィルム」で作品『夜明け』を発表したり、監督短編集『ippo』(2023)が公開されたりしましたが、今後、俳優業とともに監督業にもチャレンジしていこうと考えていますか?柄本:はい。これまでの作品は短編だったので、次は長編。今年37歳なので、のんびりしていられません。近い将来、必ず長編を撮りたいと思っています!
――それは楽しみです! 楽しいお話ありがとうございました。
柄本佑(えもと・たすく)さんのプロフィール
1986年生まれ、東京都出身。2003年『美しい夏キリシマ』で俳優デビュー。映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍。2018年『きみの鳥はうたえる』『素敵なダイナマイトスキャンダル』『ポルトの恋人たち 時の記憶』の演技により第92回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞などを受賞。近作は『ハケンアニメ!』『シン・仮面ライダー』(いずれも2022)。最新作は『花腐し』(2023年11月10日公開予定)、2024年大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。『春画先生』2023年10月13日(金)公開
妻に先立たれた春画研究者の芳賀一郎(内野聖陽)は、春画に魅せられた春野弓子(北香那)を弟子にする。春画を学ぶうちに芳賀に引かれていく弓子。そんなふたりの間に、芳賀が執筆する『春画大全』を完成させたい編集者の辻村俊介(柄本佑)が関係してくる。原作・監督・脚本:塩田明彦
出演:内野聖陽、北香那、柄本佑、白川和子、安達祐実
撮影・取材・文:斎藤香
ヘアメイク:AMANO
スタイリスト:坂上真一(白山事務所)